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2006年04月24日 銃夢LO「文明復興編」を描き終わっての感想

・銃夢LO「文明復興編」を描き終わっての感想(ネタバレなし)

「銃夢」という大きな物語の中での、「文明復興編」というエピソードの役割は、「なぜこのような異様な世界ができたのか?」という疑問を解き明かすことにありました。
しかし箇条書きの説明文ではなく、生きた登場人物が出てくる物語として描くにあたって、そうした理詰めのテーマだけでは面白い物語になるわけがありません。
またサイボーグやザレムができる前の世界ですから、そうした「銃夢っぽいガジェット」なしで銃夢的な世界が描けるのか?という不安要素もありました。
銃夢LO連載当初の初期構想では、「文明復興編」はアーサー・ファレルを主人公にした(人間達だけの)サバイバル物語を考えていました。
その後導入したカエルラ・サングウィスと吸血鬼という設定を生かし、「人間vs.吸血鬼」という対立構図を使いながら、物語の中心はあくまで「人間(吸血鬼)の愛憎劇」としました。
描いていて思ったのですが、こういう「切れば血が出るような愛憎劇」を描くことこそが昔「銃夢」をはじめたころのモチベーション、初心でした。

描いていて楽しい仕事だったけど、苦しくて悩んだのは、話を短くまとめなければならないことでした。

バイロンなんかは900年も生きて、まったく別の物語になるほどの波乱万丈の人生があって、それが彼の言動や価値観に反映されています。
だから彼のキャラクターを描き切るには人間の十字軍騎士だったころの話や、ラ・ソシエテでの立場などを描く必要があり、僕の頭の中にはそうした面白そうなエピソードが悶々と生まれてしまうのだけど、泣く泣くカットせざるをえなかった。

アーサー君と愉快な仲間たちも、たくさんのエピソードがあったんだけど、ぜんぶカットしました。(T_T)
セリフでちょっと出てきた、数百キロ離れた研究所跡まで仲間と旅をしてマーリンのプロトタイプを回収するエピソードなどは、初期構想ではちゃんと描く予定でした。
アーサーのほっぺの傷の由来、許嫁のハルカとの微妙な距離、リーダーのマーカスとの対立の原因、マーカスが車椅子になった原因(一度も出てきていないアーサーとハルカの両親が亡くなった事故と関係)、等々…
彼らは彼らでヴィルマたちと出会う前から自身の物語を生きていたわけです。

でも構成の流れ上、アーサー達とヴィルマたちが出会った一昼夜に絞って描かざるをえなかった。
「描かざるをえなかった。」って言うと一言で終りですが…実際にはシナプスで頭を絞って設定とエピソードを考えて、いざネームにまとめる段になってぜんぶ描くわけにはいかないことに気付いて、苦悩の末ぜんぶカット(その間一週間経過)。
とかやってたせいでパニクって何度か連載を休むはめになったりもしました。


・「銃夢」~「銃夢LO」における物語構造の変化

「銃夢」の物語を大ざっぱに分けると、単行本1巻~5巻(ザパン編)までのガリィがクズ鉄町に定住していた時期と、6巻~9巻のTUNEDとして荒野を放浪していた時期、そして「銃夢LO」からのザレム/宇宙編の三期に分けることができます。

物語構造的には、ガリィが主観的に見聞きできる範囲内でのみ物語が進行していた6巻(フォギア編)以前と、もうひとりの物語の語り手としてコヨミが登場してくる7巻以降に大きな違いがあります。
「銃夢」6巻以前がいわば「比類のない絶対的なヒロイン」としてガリィがいなければ物語が成り立たなかったのに比べ、7巻以降~「銃夢LO」ではガリィの動きをカメラは追いつつも、視野はより大きな世界全体を見渡すようになり、「群像劇」の様相を呈してきました。
旧「銃夢」ではガリィが出てこない「馬借戦記」のエピソードがその例です。
宇宙編になればその傾向はさらに強まるだろうことは当時の連載中からわかっていましたが、当時の僕は数年にわたるハードワークから思考が硬直化して、「ガリィ絶対主義」という認識を抜け出ることができませんでした。

ブランクをおいての仕切り直しとなる「銃夢LO」では、そうした構造の変化を直視し、消化した上で、なお面白い作品が描けるはずだ、と考えてはじめました。
旧「銃夢」連載中は「ガリィ絶対主義」に陥りながらも逆にガリィというキャラクターの魅力がわからなくなっていたのですが、時間を置いて見つめ直す間に、改めてガリィの魅力を再発見し、しかも「絶対視しない」という作者としての距離感をとれるようになりました。

そうした中で、新たにガリィ以外の主人公としてゼクスやカエルラ(ヴィルマ)が登場してくることとなったわけです。
今回の「文明復興編」はそうした長きにわたる物語「構造改革」のひとつの成果だと、僕はとらえています。


ちょっとカタい話になってしまいました。(^-^;)
こうした「構造がどうの~」という話はふだんは編集者との打ち合わせの時とかにするたぐいの話で、あんまりファンの人に向けて書くような内容ではないのかもしれませんが、ま、たまにはいいかなと。

2006年04月27日 

前回の書き込みは予想以上に評判いいですね。
制作裏話といっても、「どこそこを描くのに苦労した。」というような話ならともかく、モノ作りのロジックに触れる事はけっこうビミョーな問題をはらんでいるので、なかなか書きづらいんですよ。
自分のジョークを自分で解説するような気恥ずかしさとともに、身もふたもないような事も現場では話しあってますからねー。
物語幻想を粉砕するような話題とか。
でも銃夢のファンはちゃんとした大人の方も多いので、「一般公開しても安全」と判断したネタがある時は書き込みするようにします。