ゆ き と の 書 斎

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2002年11月17日 「文字の呪力」

銃夢BBSでも英語BBSでも「なぜ劇中の看板などにハングルが使われているのか?」という質問が出ているようなので,お答えします。
 
答えは単純にいうと,「ハングルの字体が幾何学的で,かっこいいから」。
もうちょい現実的な理由としては,「欧米と中国以外の言語のちゃんとした辞典が手に入るのがハングルしかなかったから」。
 
さらに詳しく解説しますと。
昔の人間は文字には「呪術的な力」がある,と考えていました。これは文字を読み書きできるのが王族や呪術師などの特権階級に限られていたため,一般人には「文字」は想像もしないような力を秘めた「未知のテクノロジー」だったためです。
こうした「権力の道具」としての文字の使用は現代社会ではほぼなくなりましたが,一部にはまだその名残が残っています。
(漢字の四字熟語になんだか有無をいわさぬ説得力を感じるのは,外来語としての漢字をありがたく拝領してきた日本人の悲しい性でしょうか。僕の作品の漢字タイトルはそのへんを逆用/相対化して遊んでるんですけど)
 
さて,人間の心理的に見て,文字が最高の呪力パワーを発揮するのは,その文字が読める時よりも読めない時に顕著です。
なにか書いてあるけど読めない,読めないけどなにか意味が秘められているぞ,こういう時に人間の原始的な心性は恐れ/あこがれを抱きます。
 
僕は小学校の頃,英語/アルファベットの文字が読めなかったためそれに非常な魅力を感じ,自作の模型などに辞書を引き引きアルファベットの書き文字などをして悦に入っていました。
しかし中学,高校と英語を習ってある程度読めるようになるにつれ,アルファベットの神秘性はすっかりなくなってしまいました。
 
最近欧米などでもへんちくりんな漢字やカタカナのロゴが入ったTシャツが流行ったりすることから見ても,未知の言語へ神秘を感じる心性は普遍的なものと思われます。
 
こうして,銃夢のクズ鉄町では混沌のさまを際立たせるために,一見して内容が分かる漢字や英語の看板に混じって(一般の日本人には)読めないハングルの看板を入れたわけです。
実際のところ,神秘性を求めるにタイ語でもサンスクリット語でもかまわないのですが,前記のようにまともな辞典が手に入らないため,ハングルに落ち着きました。
読めないからって何が書いてあってもいいというわけではないので,ちゃんとクズ鉄町の看板にふさわしい単語を選んでいます。(サイバネティックスとか…。字が間違ってないかどうかは冷や汗ものですが)
 
宇宙編になってハングルが出てこないのは,文化が違うのと,よりファシズム的に管理された世界だからです。とはいえ,サンスクリット語とかでいい辞書が手に入れば使ってみたいんですけどね~。