ドクターマスク of 茶房・風雲庵

レザークラフト作品ギャラリー

title.jpg

このコーナーでは管理人が手作りした革小物を公開しています。

#0035 ドクターマスク


_15.jpg2013.2.26

ゆきと先生の今年の誕生日プレゼント用に製作。2月16日ごろから始め、試作品を含めて26日に完成。

このカラス型のマスクは、ペストが大流行した時の中世ヨーロッパの医者のマスクで、英語では「plague doctor mask(ペスト医者マスク)」などと呼ばれている。なんでクチバシがついたカラス型なのかは謎だが(クチバシ部分に薬草を詰めてペスト菌を防ごうとしたとかなんとか)、この異様なマスクには昔から心引かれるモノがあった。かと言って自分用に作るのは面倒だけど、ちょうど先生の誕生日が近いので、誕生日プレゼントとして作ってしまおうと考えたのだった。

しかしこうした仮面は複雑な立体形状なので、見た目より作るのは難しい。まずは情報収集とネットで検索していると、海外のマスク職人Tom Banwell氏のサイトを発見した。氏は実際にカラス型マスクを製作してネット販売もしているらしい。これは渡りに船と、Banwell氏のマスク構造を参考にして作ることにした。

Banwell氏のマスクは厚めの牛革を使っていることから、パーツを縫いあげたあと、水でぬらして成形していると推測(牛のヌメ革はぬらして変形させ、乾燥させるとクセがついたままになる)。写真を見ながら型紙を作るが、変形前の形を想像しながらなのでなかなか難しい。大きさも自分の顔に合わせて調整する。

このマスク最大のポイントはカラス状のクチバシと、無表情さがブキミな丸いメガネである。丸メガネは当初、溶接作業に使う遮光メガネを使おうかと考えたのだが、遮光メガネでは黒過ぎて全然見えなくてボツ。ただの透明な丸い板ガラスも考えたが、取り扱いに気を使うし、何より割れたら危ない。どうすべきかと考えながらホームセンターをうろうろしていたところ、あっけなく丸いアクリル板を発見。こいつに自動車用のスモークフィルムを貼れば、ある程度安全面も確保できよう。我ながらベストアイディアである。

型紙の調整が終わったら型に合わせて2mm厚の牛ヌメ革を切り出す。パーツ数はマスク本体が4つ、頭部を固定するベルト類が6つと決して多くはないのだが、マスク本体が奇妙な形をしている上に大きいので、かなり面積を食う。はじめに作った型紙では30cm幅の牛革に収まらず、やむを得ず下アゴパーツがギリギリ30cmになるよう切り詰めた。Banwell氏のマスクもクチバシは30cm程度のようだが、昔の医者の絵を見ると5〜60cmはありそうだ。しかし実用上?は30cmくらいが扱いやすいと思う。

各パーツのヘリ染色・磨き処理をしたら、各パーツの縫いつけ作業。メガネ部分以外を縫い終わると、円すい形のラッパ状になる。これでもだいぶマスクっぽいがカラスには見えないので、ここから革を水でしめらせて形を整える。下アゴの先端をヘコませ、ほお骨のラインをつけてそれっぽくしたら自然乾燥。000.jpgこちらは最初に作った試作品。

続いて本作業の山場となるアンティーク処理と色つけ作業である。まずはペースト状の染料「アンティークダイ」を使って下色をつける。この染料は縫い目などの細部に泥状に固まるので、古びて使い込んだ感じを出しやすい。続いてアルコール染料の「レザーダイ」で赤茶色に仕上げた。通常なら「レザーダイ」だけで済ませるところだが、「アンティークダイ」と併用することで色合いに深みが出せるのだ。しかし「アンティークダイ」のアンティーク処理具合のコントロールが難しい。単なる色ムラにならないよう、キレイに汚さないといけない。

気が済むまで染色したら、色止めのために仕上げ剤を塗って仕上げる。仕上げ剤はたくさん種類があるが、多くは油性や水性のラッカー系で、仕上がりがテッカテカなわざとらしい光沢になってしまう。それがイヤで今まで仕上げには光沢が自然なセイワの「レザーフィックス」(水性アクリル樹脂仕上げ剤)を使っていたのだが、今回はさらにツヤを抑えた(しかし磨くと光る)同じセイワの「ワックスコート」(水性ワックス仕上げ剤)を使ってみた。塗った直後はニスのようにピカピカだが、乾いて落ち着くとかなり自然な感じに。しかし気のせいか「レザーフィックス」よりキズに弱い?

このあといよいよ丸メガネを取り付ける。レンズのアクリル板の固定は、ドーナツ状に切った革で前後からはさんでいるだけ。ドーナツ状の革の内側に縫い目があるのでレンズを縫いつけているように見えるが、この縫い目、実は飾り縫いである。しかしこの飾り縫いによって革のヘリが広がらず、レンズがはずれるのを防いでいるため意味のない飾りではない。それはいいのだが、ドーナツ状の革をマスク外側と内側からはさみ込んで一度に縫う方法を取ってしまったため、必要以上に手間取ってしまった。

最後に頭部のベルトを長さを調節しつつ、カシメで取り付けて完成。実はこの完成品の前に、サドルレザーで作った試作品もあるのだが、こっちは大きさが大き過ぎたのとアンティーク仕上げを汚し過ぎた(木製の仮面のようになってしまった)のでボツに。完成品ももうちょっと目が正面を向いているように作りたかったところ。やはり見様見まねでは本家Banwell氏には及ばなかったようだ。

本 体  …… 牛ヌメ 2mm
手縫いロウビキ糸、ビニモ5番 アクリル円盤6cm 自動車用スモークフィルム カシメ大 真ちゅうバックル20mm

001.jpg3mm厚の透明なアクリル円盤に、自動車用スモークフィルムを貼って余分をカット。_01.jpgBanwell氏のカラスマスク写真を見ながら型紙を作成。これがなかなか難しい。_02.jpg切り出した2mm厚の牛ヌメ革のヘリに色をつけて磨き処理。縫い穴も開ける。_03.jpg下アゴパーツと上アゴパーツを縫いつける。中央の縫い目はヘコませるため。
_05.jpg縫いつけ完了。水に浸したスポンジで革をしめらせ、形をカラスっぽくする。_06.jpgアンティークダイで古ぼけたように汚しの下地処理。汚しの加減が難しい。_07.jpgレザーダイで染色。色ムラをつけて焼けた色あいに。仕上げ剤を塗って仕上げる。_09.jpgメガネを四苦八苦して縫いつけたらマスク本体は終了。完成まであと少し。
_11.jpgメガネ裏は表と同じ革ではさみこんで縫いつけている。クチバシ下はこんな形。_12.jpgマスク本体と同じように染色処理したベルト類。仮組みして長さを調節しておく。_13.jpgベルト類をカシメで留めたら完成。バックルが重くないか心配だったが問題なし。_14.jpgベルトの構造。Banwell氏の考案をそのまま拝借したが、よく考えられている。