サドルバッグ of 茶房・風雲庵

レザークラフト作品ギャラリー

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このコーナーでは管理人が手作りした革小物を公開しています。

#0016 アンティークレザー・サドルバッグ


012.jpg2010.07.26

ハーレー用サドルバッグとして製作。2010年6月24日から製作開始、7月26日完成。

サドルバッグと言うのはもともと馬の鞍から下げるバッグのことで、自転車やバイクのシート付近に装着するものもサドルバッグと言う(→参照:Wikipedia サドルバッグ)。さて私のハーレーには買って1年ほど経つデグナーのサドルバッグがつけてあるのだが、使い始めてみるとこれが「ちょっと小さいなァ」と感じていた。ツーリングに行って知り合いにお土産でも…と思っても、ちょっとした小物程度でいっぱいいっぱいになってしまうのだ。

001.jpgアンティーク調の3.5mm厚・牛ヌメ革

これではイカンと思っていたのだが、そうこうするうちにレザークラフトを始めてしまい「レザークラフトを始めたのなら、いずれサドルバッグぐらい自分で作らねば…」と考え、ポーチやトートバッグなどを作りながら時期をうかがっていた。今年も早や半年を過ぎ、だいたい基本的な技術は習得したと感じたので、ここらでいよいよ大作となるサドルバッグの製作に着手したのである。

ただ分厚いサドルレザーで作るとランドセルのような、サドルバッグとしてはお決まりの形になってしまいそうなので、少し変わった革を使うことにした。某ネット通販レザーショップにて格安で売られていたアンティーク調ブラウンの3.5mm厚牛ヌメ革を即決購入。この革の特徴はバイソン革のような表面のシボ(牛革などの場合、薬品にひたしてシワをつけた加工革のことをシュリンク革と言う)と、厚みがあるのにものすごく柔らかいこと。アンティーク調のムラのある茶色と深いシボが実にシヴい。

002.jpg目打ちでは跡がつかないため、銀ペンで線を引く

非常に柔らかい革なので変わったデザインにしようと思ったのだが、どうもデザインセンスのない自分の頭ではたいしたものが思い浮かばない。結局底が丸い、半円形のポシェットを巨大にしたようなデザインラインで行くことにした。またすでに使っているデグナーのサドルバッグよりは容量的に上回っていないと新たに作る意味がない。しかし縦幅や横幅は(バイクに取り付ける場所的に)そんなに大きくできないので、厚みを増やす方向で大容量化を目指すことにした。

まず製作の第1歩は型紙作りだが、ここからがもう大変。幅45cmとかの厚紙なんてそうそうないのである。しかし運良く去年のカレンダーを捨てずに残してあったので、張り合わせて使う。横44cm×縦42cm×厚さ20cmという巨大さは、既製品のサドルバッグでもなかなかない大きさだろう。

003.jpgマチパーツのはじを漉いて薄くする

さて型紙を革に写すのは通常「目打ち」と言う丸い錐を使うのだが、今回は表面のシボが深い革なので「銀ペン」と言うボールペンを使う。ちなみに一般的な黒インクのボールペンでも描けるのだが、「銀ペン」は後で消すことができる銀色のインクで、黒い革でも見やすい特徴を持つ。

型紙を革に写し終えたら次は革の裁断。しかしこれがまたひと苦労。マチにあたるパーツなんて長さが1mを超えてしまうのだ。机からハミ出してしまうパーツを四苦八苦して裁断したら、今度は縫い合わせる「縫い代」を薄く漉く作業。左の写真のうち中央にあるのがスーパースカイバーという革漉き専用の道具で、その右にあるのが革包丁。このふたつを使って縫い代を半分くらいの厚みにする。この作業も削りカスが大量に出るわりになかなか進まず、地味な苦労を強いられる。

004.jpg競馬馬の蹄鉄をスタッズで囲った胴体飾りパーツ

いいかげん地味な作業ばかりで疲れるので、先に胴体正面につける飾りパーツを作る。この時のためにあらかじめ買ってあった競走馬の蹄鉄(実際に馬に履かせていた本物!)を丸く切った革に縫いつけ、その周りにゴールドのスタッズを打った。スタッズ(鋲)を使ったのは今回が初めてだが、数を打ちすぎても少なすぎてもうまくいかず、その辺のセンスが問われるようだ。今回はスタッズとカシメをゴールドで統一したので、そんなにメチャクチャなことにはなってないと思われる。

次に飾りを胴体に縫いつけるのだが、通常「ヒシ目打ち」というゴツいフォーク状のものを木づちで打って縫い穴を開けるところを、今回は「ヒシ目パンチ」という新兵器を用いた。これは上下から目打ちの刃で革を挟み込んで穴を開けるペンチ式の道具で、木づちで打つ音がしないため、夜中でも作業できるという利点がある。ただし「ヒシ目パンチ」は革のはじっこしか穴を開けられないという欠点もあるし、1cm以上の厚みには対応できない。だがこれでだいぶ作業がはかどることは間違いない。

005.jpg胴体パーツに飾りパーツを縫いつけた状態

縫い穴を開けたら、以前トートバッグを作ってから使い続けているナイロン糸の「ビニモ」でガシガシと縫っていく。今回は白を使用。ビニモはあらかじめタップリとロウを含んでいるナイロン糸で、私は毎回0番という1番太いものを使っている。麻糸などを使う場合は「ロウ引き」と言って、ロウに糸を押し付けて引っ張る動作を数回繰り返し、さらにドライヤーで温風を当ててロウを糸に溶かし込んでから縫う。今回のように縫う量が多いとこのロウ引き作業が面倒なので、あらかじめロウ引きされた糸を使った方が便利なのだ。

そんな感じでビシビシ穴を開けてバシバシ貼り合わせてガシガシ縫っていく。今回はじめの方は製作中の写真を撮っていたのだが、完成まで約1ヶ月かかったこともあり(その間に北海道旅行も)途中から写真を撮り忘れて黙々と製作に没頭してしまった。そのためここから完成まで写真がないことをご了承頂きたい(笑)。

006.jpgいきなり完成状態のアンティークサドルバッグ

製作に苦労した部分と言えば、やはり胴体とマチの縫い合わせだろう。マチと胴の間にパイピングをはさんで縫おうとしたのだが、マチと胴で縫い代の長さが合わず(計算違い(^^;)やむなくマチを真ん中から分断し長さを調節、マチと胴を内縫いで縫い合わせたのだった。

そもそも大きさが巨大なので、いつものレザークラフトと比べて縫う距離も長いし、パーツを接着剤で貼り合わせるのも大変だったのだが、落とし穴は意外なところに待ち受けていた。打って固定したはずのカシメがポロポロと外れる外れる!どうも3.5mm厚の革を2枚重ねると、カシメ(カシメには足の長さで2種類あり、これは短い方)で固定するのにはギリギリらしい。はじめから長い方を使えば良かったのだが、厚みに対して足が長いのを打つとカシメがズレてしまったりするので、見極めが難しいのだ。

009.jpg思いつきでつけたドリンクホルダー

外れたカシメは足の長いので打ち直して事無きを得たが、バイクにつけて走っているうちに外れたりしないか心配だ。特に今回、作ってる途中で思いついてくっつけたドリンクホルダー(写真の格子状のパーツ)などはカシメが外れたら大惨事である。

また今回はコバ(革の断面)を染色せずに、ナチュラルの状態でCMC(革用の仕上げ合成ノリ。天然素材だとフノリを使ったりする)で磨いて仕上げた。貼り合わせ線が見えちゃってるコバのイカニモな素人仕上げも(実際素人の手作りだし)まあ味になるだろうと。

できあがったサドルバッグはカブセがちょっとフニャフニャしてて頼りないが、まあなんとか雨よけとしては機能するだろう。胴体部も内部にはマチと背に樹脂製の板を入れて補強しているのだが、それでもちょっと柔らかい。しばらく使ったらヘロヘロに型くずれしてしまいそうな気もする(笑)。革と言うのは部分部分で密度や堅さが微妙に異なるので、大きな1枚革の状態から切り出す時にコンディションを見極めなければならないのだが、その辺が自分には難しくまだまだシロウトだなぁと実感する。

008.jpg内部はマチと背に樹脂製の補強板入り

背板にはポケットを備え、車検証や保険証を入れられるようになっている。車検証は常に携帯していなければならないので、さっそくコピーを入れておいた。なぜコピーなのかと言うと、バイクが盗難に遭った場合、車検証もいっしょに盗まれるとバイクの持ち主を簡単に変更されてしまうからだ。ただ近年のバイク盗難は、プロの窃盗団が盗み出してパーツに分解して海外に送ってしまうのであまり車検証は関係なさそうだ。

バッグの背面には、デグナーのバッグにならい革ヒモを取り付けてある。これはバイクにつけてあるバッグサポート(車輪に巻き込まないようにガードする鉄筋)に結びつけ、コーナーリング時にバッグが車体から離れないようにするもの。とは言え車高の低いハーレーなので、バッグが地面に擦れるほど倒し込んだりはできないのだが(その前にステップをこすってしまう)。

010.jpgサドルバッグサポートに結びつける革ヒモ

なお背面の縫い目がガタガタなのは見て見ぬフリをしていただきたい(笑)。3.5mmの革を3枚で1cmを超える厚みのためヒシ目打ちの刃が貫通せず、目打ちを打った後に「ヒシギリ」という錐を使って貫通させるのだが、この時にガタガタになってしまったようだ。このヒシギリを垂直に刺し続けるというのが意外と難しい。こういうところも素人感丸出し。


007.jpgデグナーのサドルバッグと大きさ比較

左の写真の右側の黒いバッグがデグナーのサドルバッグ。デグナーのバッグにも馬の蹄鉄がついているが、これは自分で後からつけたもの。ハーレーと言えば鉄の馬……ということで馬の蹄鉄をアクセサリーとしてくっつけたのだが、この蹄鉄と言うのが案外手に入りにくい。これだけあちこちで毎週競馬をやっているのにと思うが、あまり需要がないのだろう。今回入手した蹄鉄は栗東(滋賀県)の競馬馬に使われていた本物。もうちょっと小さいと使いやすいのだが、本物の蹄鉄なので文句も言えない。

013.jpg革が柔らかいのですでにクタっとした感じに

後はバッグを実際にバイクにつけて走ってみるのみ。どのような不具合が現れるか予想はできないが、ドリンクホルダーは革が伸びてベロベロブカブカになってしまうかも(笑)。このところ暑すぎてなかなか検証できそうにないが、日帰りツーリングなどで使い勝手を見つつ変化の様子を調べていきたい。もし全然問題がないようなら、このアンティーク調牛ヌメ革はまだ残っているので、サドルバッグに合わせてツールバッグなども作ってみたいと思う。

本体……アンティーク調牛ヌメ革 3.5mm
パイピング……リオソフトコガシ 1mm
その他……ブルガノ 2mm
ビニモ0番白 Dカン バックル25mm カシメ特大 スタッズ10mm Taiwa兼用蹄鉄