ゆ き と の 書 斎

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近況 2007年

2007年07月26日 「恐怖プリーズ」更新!&レビュー

恐怖プリーズ〈 恐 怖「i」話・第1回 〉が更新されました。
つーちゃんグッジョブ。(^_^)b
つーちゃんから「おいちい話が集まった」と一部はかいつまんで聞いてはいましたが、ちゃんと読むのは僕も初めて。
いや~すばらしいですな。
『新耳袋』や『「超」怖い話』レベルの実話怪談が集まるとは。

みなさんもぜひ読んで、感想などがあったら「恐怖BBS』にでも書きこんでくれるとうれしいです。

僕も、このあいだイトウさんから荒木飛呂彦先生が体験した「ちょっとおいちい話」を聞きました。
ウチで掲載してもOKとのことだったので、今月には間に合いませんでしたが、いずれ公開できると思います。


怪談つながりで、ここ2カ月ほどに読んだ/観たそっち系の本・DVDの感想書きます。

*読んだ本*

・『幽霊を捕まえようとした科学者たち』
デボラ・ブラム著 鈴木恵 訳

19世紀末、欧米で大流行したスピチュアリズム(心霊主義運動)を、その中心となった研究者たちの詳細な記録を基に立体的に描き出したドキュメンタリー。
当時話題になった心霊事件や交霊会の様子などが事例として出てくるが、怪談ではなく研究レポートなので、いわゆる「背筋のぞっとするような怖い話」を期待して読みはじめると肩透かしを食らうだろう。
しかし19世紀スピチュアリズムや、同時代の西洋科学思想界に興味がある人であれば、この上なく面白い読み物となる。

まず、本の始めに載っている登場人物のリストがすごい。
進化論のダーウィン、ウォレス、クルックス管を発明したW.クルックス、おなじみコナン・ドイル、マーク・トウェイン、キューリー夫人、マイケル・ファラデー、発明王エジソン等々、ノーベル賞を受賞した当時一流の科学者や文筆家がそれぞれ心霊肯定派・否定派として大量に登場。
キャラの立った個性豊かな研究者たちが「死後生存の証明」を賭けて繰り広げるドラマは波乱万丈で飽きることがない。

なぜこの時代にスピチュアリズムが隆盛したのか以前から僕は不思議だったが、この本を読んで謎が解けた。
それまで欧米世界ではキリスト教の教義によって安定していた道徳が、19世紀になり科学技術の急激な発展と成功によって揺らぎ、否定されかねない状況に陥った。
特にダーウィン進化論の登場はキリスト教会にとって不倶戴天の敵の登場と受け取られた。
(現在でもアメリカ中西部では、進化論を否定するキリスト教創造論者が存在する。)
科学が論理的に正しいことを理解しているインテリ層ほど、「旧来のキリスト教道徳の危機」に敏感で、自覚的であった。
そこで登場するのが「霊魂の不滅=死後生存の証明」であった。
霊魂が不滅であることを証明できれば、聖書に書いてあることがすべてその通りでなくても、人間を道徳的に律する理由になるのではないか、と考えたのである。
仏教と儒教をベースにする武士道を倫理とする日本人からすると、科学と道徳を両立させるためにここまで曲芸的な詭弁を考え出さなければならないというのは不可解な感じがする。
しかしそれだけ彼らにとってはのっぴきならない問題だったのだろう。

結局死後生存は科学的に証明されたのか?
それは読んでのお楽しみ、ということにしておこう。


・『怪異実聞録 なまなりさん』
中山市郎 著

実話怪談の新時代を切り開いた『新耳袋』の著者の一人、中山氏がひとつのエピソードに丸々一冊を費やした、「実話怪談」。
同時期に新耳のもう一人の著者・木原氏の『隣之怪』という本も出たのだが、アマゾンのレビューではこちらのほうが星の数が多かったので、こちらを先に買って読んだ。

…で感想をハッキリ言わせてもらうと、「これは実話なのかっ!?」
いや~面白いことは面白かった。違う意味で。

まず、超短編である『新耳袋』とは違い、話者のプロフィールや登場する人たちの外見や人となり、人間関係などが細かく語られる。
ところが、登場人物が美男美女ばっかり。
この話の話者(主人公)となるプロデューサー業の男性からして、アメリカ人とのハーフで昔は米軍海兵隊に在籍、湾岸戦争にも従軍した猛者で副業は退魔師。
そして超グラマーで色気ムンムンの美人姉妹がポルシェとフェラーリに乗って現れる!!

…おいおい、今どきマンガでもこんな非現実的なキャラ設定はねーべ。
もし「本当にこういう人たちが実在するんだ」というのなら、僕は幽霊や呪いが実在することよりも不思議だと思う。
僕は幽霊やUFOやUMAよりも「絶世の美女」の実在の方が疑わしいと思っている男だから。

この後、プロデューサーの男性の仕事仲間の善男善女のカップルに美人姉妹がすさまじい嫌がらせをして、カップルの女性が耐えきれずに自殺。
その後美人姉妹に呪いと祟りのコンボが降りかかり、話者の男性は退魔師としてこの事件に関わってゆく…という流れ。

呪いにさいなまれる一家の描写などは、さすが長年実話怪談の収集に携わってきた中山氏の経験が生きて、生々しい臨場感がある。
しかしキャラ設定がコレなので、「実話」怪談としては信憑性に疑問符がつき、いまいちのめりこめなかった。
しかし新しいタイプの冒険小説としては面白い…かも知れない。
「黒豹スペース・コンバット」ならぬ「黒豹心霊コンバット」だ!
ぜひシリーズ化してもらいたい。

(注)『黒豹スペース・コンバット』門田泰明 著
日本の誇るスーパーエージェント・特命武装検事・黒木豹介の活躍するビックリ冒険小説。ICBMをベレッタで撃ち落としたりする。
上中下巻の大部だが、奇天烈本好きとしては外せないタイトルだ。


・『隣之怪 木守り』
木原浩勝 著

『新耳袋』の著者の一人、木原氏の実話怪談集。
たくさんの短編が集まった形は新耳に近いが、話者(体験者)の一人称の語り、ですます調の文のために新耳とは印象がだいぶ違う。
アマゾンのレビュー点数は中山氏の『なまなりさん』よりも低かったが、僕としてはこっちのほうが「実話怪談として」気に入っている。
たしかに敬語調の文、話者のよけいな修辞や感想などが鼻につき、最初は読みづらい。
新耳や超怖が新しい時代の実話怪談として成功したのは、文体も含めた「ドライさ」にあると僕は考えている。
それからすると、ウェットな敬語調の文体は退化しているとも受け取れる。
これは(「なまなりさん」や最近の超怖シリーズも含め)モチーフに因果応報的な呪い・祟りの話が多くなっていることとも関係して、けっこう根が深い問題ではないかと思う。
映画の『リング』や『呪怨』のヒットに引きずられただけかも知れないが…。

僕がこの『隣之怪』がよいと思う理由はひとえに、収録されているエピソードにいくつか「おいちい」話があるからだ。
特に「記憶」という話は神隠しに類する話だが、予想を裏切る展開といい、一筋縄ではいかない。
子供の頃に読んだ中岡俊哉先生の「恐怖の四次元館」を思い出した。
幽霊も凄惨な死体も出てこないが、僕にとってはここ半年で読んだ中でもっとも怖い話だ。


・『「超」怖い話K』
平山夢明 著

『○○○○の「超」怖い話』というタイトルの類似品は腐るほどあるが、元祖『「超」怖い話』の正統シリーズの最新刊。
今どきの若者に受けるサイコでグロい話を量産し、ブイブイ言わせているデルモンテ平山こと平山夢明による実話怪談集。

超怖のオールドファンである僕とつーちゃんのあいだでは、平山氏の評価はよくない。
初期の超怖の、「のんきでほのぼのしてて…ときどき怖い」というテイストが、平山氏の持ち込んだ「病んでてサイコで…非人道的な」スタイルによって汚されたと感じているからだ。
(僕とつーちゃんの対談「絶版怪書録」も参照のこと(リンク)

とはいえ、平山夢明が現代日本文芸界の極北を体現している現役作家であることは認めるところである。

今回の『「超」怖い話K』もその意味で平均的な「平山節」でできている。
きっと今どきの若者には面白いと思う。
しかしすでにじじいである僕にとって、特に印象に残る話はなかった。

超怖のシリーズ存続が危ぶまれたころと比べればぜいたくな悩みだが、すこし刊行ペースを落として質の向上に努めてほしいと思う。


・『「超」怖い話 怪歴』
久田樹生 著

元祖『「超」怖い話』の新人編著者による実話怪談集。

これは文句なくオススメの一冊だ。
今回レビューした実話怪談集の中でベストワンに推する。
初期の超怖にあった「珍妙で、不思議で、どうにも説明のつかないような話」から、平山夢明風の「グロくて理不尽な心霊テロ体験」まで、実にバリエーション豊か。
僕の特に好きな話は「山の死体 その一/その二」。
山に出入りするおじさんが遭遇した奇妙な死体の話。

怪談好きの僕は「ああ~俺は今幸せだ~」というドーパミン出っ放しのトリップ状態になり、いっきに読み切ってしまった。
読み終わった時は本が終わったことが残念で、悲しくて放心状態になってしまった。
まさに怪談ジャンキー症状である。


*観たDVD*

・『怪談新耳袋絶叫編 右 牛おんな』

実話怪談集『新耳袋』を原作にした実写ドラマシリーズ。
BS-iで放送されたシリーズは原作同様、一話10分未満の超短編ドラマだったが、この新作は一話50分の「絶叫編」。
僕はBS-iで放送されたシリーズの一部(おそらく第一シーズン)と劇場版を見ていて、非常に面白かったのでこの新作「絶叫編 右・左」をDVDで買って観た。

結果は「買って失敗だった…」。

タイトルインパクトの強い『牛おんな』。
原作では新耳第1夜の「“くだん”に関する四つの話」をベースにしていると思われる。
ドラマでは原作にあった格調高いドキュメンタリーの匂いは跡形もない。
冒頭、カップルが山奥の神社に上がり込んでイチャイチャしてると、牛おんなが現れてツノでひと突き!
その後現れた不埒な男女五人組を牛おんなが次々に惨殺して回る!!

…とか書くと面白そうですが、実際は意味のないカット回し、ぬるい演出、感情移入のかけらもできない登場人物などによって、ひじょ~にダルい出来になってます。
50分を3分に編集すればもうちょっと観られるようになったかも…。
筋は要するに和風ジェイソンなんですから、もうちょっと惨殺シーンを工夫するとかすればいいのに、BS-iで放送するためか、単に予算がないのか、出血シーンや特殊メイクは最小限。
襲われる側の若者たちも、一人ぐらいまともな娘を出して観客の共感を引くようにすべき。
キレて逆襲しようとして返り討ちに遭う男子キャラとか、謎のマタギ登場とか、面白くしようとすればいくらでも面白くできるはずなんだが…。

・『怪談新耳袋絶叫編 左 黒い男たち』

絶叫編・その二。
こちらは「牛おんな」に比べシナリオで勝負している分、観ることが出来た。

「黒い男たち」は原作では新耳第4夜の同タイトルの話がベースになっている。
「黒い男たち」といっても黒人のことではなく、「メン・イン・ザ・ブラック」略してMIBと呼ばれる、UFO目撃者を脅迫したりして事件の隠蔽をはかろうと暗躍する謎の黒服の男たちのことだ。
(コメディSF映画にもなったので名前だけは有名だと思う。)

ある日、女性主人公の元に差出人不明の封筒が届けられる。
封筒には小学生時代、故郷の山の頂上で友達と二人で撮った写真が入っていた。
そして写真の裏には肉筆で「たすけて」と記されていた。
記憶をひも解き、友達の消息を尋ね歩いていくうち、不気味な「黒い男たち」の影がちらつきはじめる。
バイト先のコーヒーショップの常連客のオカルトおたく連中の助けも借り、記憶の中の真相に肉薄しようとする主人公だったが…。

オリジナルのMIBは黒いスーツに黒いネクタイ、黒い帽子に黒いサングラス、黒い50年代のキャデラックに乗って現れるらしいが、ドラマの「黒い男たち」は帽子やサングラスはしていない。
そのため単に葬式帰りの「喪服の男たち」に見えてしまうのは愛嬌。
現代日本では黒い帽子にサングラスはあまりに滑稽に見えてしまうため、演出的に外したと思われる。

原作にあった、「UFOを偶然撮影したために行方不明になってしまう少年の話」がドラマ中でオカルトおたくの口から語られる。
いわゆる「神隠し」ものであり、神隠しに会わずに生き残ってしまった主人公の葛藤と和解が裏のテーマとして語られる。

MIB伝説発祥の地・アメリカでは脅迫・事故に見せかけた暗殺など政府陰謀説と結びつきやすいMIBが、日本では子供を神隠しする異界の存在になるということが興味深い。
昔だったら天狗の役割だ。
天狗も山のものであり、空を飛ぶというUFOとの類似性があるところを見ると、「黒い男たち」は天狗の現代的に零落した姿なのだろうか。


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