[ 夏休みホラーSP ]
ぜっぱんかいしょろく
2004. 7. 23




◎ 怪書対談その4:近代名作怪談 ◎

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写真左:『「超」怖い話』勁文社/安藤君平編著/1993
平成を代表する文庫怪談の名作シリーズ。勁文社刊行のシリーズだけで11冊を数える。
竹書房に移ってからの新シリーズは現在も刊行中。→「超」怖い話公式ホームページ


写真右:『ダイバーズバイブル part.5』アクアプラン/小出康太郎/1995
怪奇本とはまったく関係のない、ダイビング時の危険・事故を体験したダイバー達による
実用書。全5巻。しかし実名ダイバーの壮絶な怪奇体験談も収録されている激レア本。



【ゆきと】 次は『「超」怖い話』だな。ここに『新「超」怖い話8』まである。これ以降の(シリーズ)は手に入るでしょ。(新「超」怖い話)『彼岸都市』から後のやつは。
【ツトム】 んー。ん?『「超」怖い話Q』は?
【ゆきと】 あれも手に入るだろ…入んないか?勁文社のやつだからあれは。…まぁ『「超」怖い話』もな、『銃夢』(の仕事)やってる最中に発見して「これはー!」と思って…。 ※勁文社のやつ
勁文社は02年に倒産したため同社刊行シリーズは入手不可能。ぜひ竹書房で再販してもらいたい。
【ツトム】 最初の『「超」怖い話』は…(奥付を見る)93年。
【ゆきと】 うん、ちょうど『銃夢』真っ盛りのころだよ。
【ツトム】 これは兄キ、たまたまコンビニで見つけたってことですか?
【ゆきと】 そうだよ。当時まだネットも何もなかったからな。そういうウワサのネットワークなんかねえから。まぁコンビニで見つけて買って、たまたま面白くて「これはー!」って。「これはなんか(他の怪談本とは)違うな!」って思って。で、つーちゃんとかに読ませて。
【ツトム】 これはしかし面白いとはいえ、よくこんなにシリーズになったもんですね。
【ゆきと】 この長いシリーズの間に、相当内容の傾向が変わってきたというか…もちろん著者のメンツも代わってるんだけど。最初の2冊3冊ぐらいまでは、そんなに怖い話じゃなくてな。なんか笑っちゃうような話が多くて。
【ツトム】 そうそう、なんか変な話が。
【ゆきと】 そのかわり妙にリアルでな。で、(当時ユキトプロのアシスタント)Eさんにも勧めたりしたんだけど。「『「超」怖い話』っていうけど怖くないっスよ!面白いっスよ〜」って(笑)。 ※Eさん
妖怪や未確認動物は好きなくせに怖い話が大嫌いだった。
【ツトム】 最初は「名前に偽りアリ」な話も…(笑)。『ミンキーモモ』を(ビデオ予約録画で)撮ったら、勝手にコマーシャルがカットされていたとか。アニメのポスターがめくれ上がったとか…元に戻ったとか。そういう話ばっかりだった(笑)。
【ゆきと】 「助けてくれ!」が載ってたのはどれだっけ?最初の方だったような。…「五右衛門屋敷」は? ※「助けてくれ!」
北海道の某湿原までドライブに来た2人が、何者かに追われる半身裸の男を目撃する。その男は奇怪な姿をしていた。
【ツトム】 最初でもないっしょあれは。後の方(の巻)でしょ…真ん中ぐらいじゃなかったっけ?
【ゆきと】 これだ「助けてくれ!」。二冊目(『続「超」怖い話』)だよ。
【ツトム】 二冊目か。
【ゆきと】 俺は(この話)好きなんだよ…あんまり人気投票では人気高くないけどな。スケールがでけぇ話じゃねぇか。ぜひとも実写映画化して欲しいんですけど(笑)。なんか「アンブレラ」みたいな秘密企業が謎の研究してんじゃねーか?(笑)…わずか5ページの作品だぞ(笑)。 ※人気投票
「超」怖い話公式ホームページで行なっている、各話ごとの人気投票。グロい話に人気が集まる傾向が見られる。
【ツトム】 (各巻を見ながら)あー、…なんか中盤になるともうグロい話が多いですね。
【ゆきと】 うん…あの、自殺名所のバイトの話は…?
【ツトム】 あれは最初の方かな…?
【ゆきと】 …あ、「五右衛門屋敷」が出てた。 ※「五右衛門屋敷」
富士山麓の某公園内にあるという、謎の施設での怪奇体験談。
【ツトム】 どれ?「新」か。けっこう早いですね。
【ゆきと】 3冊目。このころはまだ初期のテイストがよく残ってた。
【ツトム】 そんな早いうちに出てたのか。傑作はやっぱ早いうちに出てますね。
【ゆきと】 そりゃそうだよ。
【ツトム】 えー「管理人」(自殺名所のバイトの話)これだ。『新』の(「超」怖い話)2。もうあらかたの傑作が出そろっちゃいましたね。 ※「管理人」
日本海側にある某断崖で、自殺防止の見張り役のバイトをすることになった青年の話。
【ゆきと】 出そろったね。「車の上に乗ってる白い老婆」とか、ああいうパターンも出ちゃってるのかな。
【ツトム】 94年か。もう10年になるね。なんか読んだの、ついこないだのように思い出すけどね。
【ゆきと】 とにかく『新耳袋』とほぼ同時期に出てきた、こういう新しい怪談…それまでは、なんらかしらこう守護霊だの自縛霊だの怨霊だのと因縁が必ず明かされて、因果応報のたたりっつーのがあるものだったけど、そういうのはいっさい関係なしに、現象だけが起きるという「行動心理学的」な怪談になったという(笑)。
【ツトム】 それが平成(の怪談)の流れですね。
【ゆきと】 やはり現代的な…神もホトケもない世界(笑)。素晴らしくドライな怪談。ちょっと昔の人にはダメかもな。
【ゆきと】 大トリをつとめるのは『ダイバーズバイブル part.5』。「海の神秘と不思議」。
【ツトム】 あーなるほど、(5巻は)こういうテーマだったんだ。「part.5」だけ。
【ゆきと】 でも普通のダイビングの話も載ってるよな。ダイバーたちが体験した様々な危険とか、そういう危険にどう対処したかとかね。そういう話がメイン。ダイバーといっても普通のインストラクターだけじゃなくて、作業ダイバーとかな。こう非常に変わった職種の人たちの話が載ってて…写真入りでその人のプロフィールが載ってるから、ものすごいリアルなんだよな。で、そーいう(まじめな)本なのに、いきなり怪奇体験が入っているという(笑)。
【ツトム】 (笑)
【ゆきと】 すごい超リアルな(笑)。
【ツトム】 この(怪奇体験)話を読まされて…安全潜水とか言われてもどーしょうもない(笑)。
【ゆきと】 どーしようもねーよ(笑)。まぁこれは(本が本なので)怪奇好きの人間もまず目を配らないと思うんだよな。これは俺、「水中騎士」の関連で潜水関係の本を調べてて、ところが潜水関係の本って一口に言ったって、ほとんどないんだよ。んで毎月出てるダイビング関係の雑誌見てもさ、海の写真はいっぱい載ってるけど、具体的な潜水の時の心構えとか、そういうことについてはあんまり載ってないじゃねーか。んで一生懸命探してたら『ダイバーズバイブル』ってのがあって、細かい、実際体験しないとわからないようなことが載ってるんで「これはいいな」って思って買い集めていったら、なぜか別の(怪奇な)方向に流れていって(笑)、「これは面白すぎる」と(笑)。
【ツトム】 (笑)
【ゆきと】 隠れた超名作。まぁ怪奇好きでもまず知らないだろうと。…昔から、『怪洋星』描いた時からそうだったけど「ダイビングするなんて気が知れねぇ!」って思ってた(笑)。スカイダイビングと潜水は、ちょっと気が知れねえよ、怖くて(笑)。『怪洋星』に描いた恐怖ってのは、俺の恐怖そのものだからさ。 ※「怪洋星」
木城ゆきと短編集『飛人』に収録。海を怖れるサイボーグダイバーの話。
【ツトム】 うん。
【ゆきと】 絶対、海の底から何か出てくるよって思って(笑)。
【ツトム】 (本を見ながら)この、いきなり第一話から(笑)「夜、浮上したら子供がいてニッと笑った」これはちょっと(笑)。 ※第一話から
海上自衛隊「水中処分隊」に所属するダイバーによる、冬の房総沖での夜間訓練中の怪奇体験談。
【ゆきと】 (笑)「山道で夜中に子供がいた」なんてのとはレベルが違うよな。山道なら子供はいるかも知れねえじゃん(笑)。
【ツトム】 こっちは海だもんねぇ。房総半島沖の、夜の海(笑)。
【ゆきと】 ありえねぇ(笑)。
【ツトム】 しかも冬の海だし。
【ゆきと】 まぁ心霊系以外では、水死者を上げる話とか、グロい話もけっこう載ってるんだが。
【ツトム】 グロい話ならまだ話はわかるんだけど。…(心霊系は)言ってみれば「役に立たない話」(笑)。
【ゆきと】 まぁ「水中生物に噛み付かれた」とか、そういう話は前(の巻)からいっぱい載ってて、こういうのは危険だとか、実用的な知識は載ってるんだけど。
【ツトム】 なんつーかこう、さわやかな話から、アドベンチャーな話から、グロい話から、恐怖話まで…(笑)。
【ゆきと】 ものすごいバリエーション(笑)。…「忍野村」の話はどれだっけ? ※「忍野村」の話
富士山麓にある忍野村の小さな池「湧池」をめぐる、ダイバーHさんの物語。池の中の水中トンネル内をNHKのダイバーが撮影した際、謎の男の顔が写りこむ。後日、同池で水中カメラマンが行方不明となった。自室で潜水服姿の見知らぬ男を見たHさんは、カメラマンの探索に向かう。
【ツトム】 これですな。「陥没湖(化石湖)で遺体の捜索」。
【ゆきと】 大アドベンチャーだよな。超大作。NHKもからんでるから(笑)。
【ツトム】 これはちょっと『プロジェクトX』でやってほしい話ですねぇ。
【ゆきと】 そうだよなー。…人跡未踏の(湖中)洞窟探検という導入部から、事故、さらにその遺体捜索、その過程での怪奇現象と(笑)。まさに『プロジェクトX』並のドラマチックさ(笑)。
【ツトム】 …さてそんなところで終了ですか。
【ゆきと】 そうですねぇ…ちょっと盛り上がりに欠けたかな?(笑)

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