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2006年01月17日 マジレンジャー最高傑作論

書こう書こうと思っているうちに放映が終わってしまうっ!!いま書かねばっ!!
というわけで「魔法戦隊マジレンジャー」は最高傑作だ論です。

茨城に引っ越した2000年から毎年、子供向け特撮ドラマはかかさずチェックして見ていますが、その中でももっとも長く続く戦隊シリーズ。
決まりごとが多く、もっともマンネリ化に陥りやすいと思われがちなこのシリーズが、なぜかもっとも高いレベルの面白さのクオリティを維持しています。
俳優、シナリオライター、特撮、その他のスタッフの総合力が極めて高い水準を維持しているためでしょう。

その戦隊シリーズ30年近い歴史の中にあって、僕がおそらく最高傑作であろう!!と思うのが去年の新春から始まった「魔法戦隊マジレンジャー」です。
最初はタイトルの感じから、おちゃらけた作品なのかと思って見はじめたらさにあらず。
第1話でいきなり主人公たちのお母さん戦死。いきなり魔法戦士にさせられてしまった5人のきょうだいが、地上進攻をもくろむ超どシリアスな冥府界インフェルシアとの戦いに投げ出されるという急転直下なストーリー。
長いシリーズなのに話のたるみというものがなく、1クールごとに最終回かと見まがうような話の盛り上がりを見せ、魅力的な敵幹部もがんがん面子交代。

僕が戦隊ものを評価するにあたって、いくつかの具体的なポイントがあります。

*隊員が色とりどりな理由をちゃんと説明できること。

マジレンジャーでは、火・地・水・雷・風のそれぞれのエレメント(元素)を体現しているとして合理的な世界観の構築に成功。
(風がピンクというのはちょっと無理があるような気もしますが)(^-^;)
マジレンジャー以前では、「五星戦隊ダイレンジャー」が中国の五行論で意味づけしたという前例があります。

*途中にどんどん登場する新型ロボがちゃんとストーリー・世界観にマッチしていること。デザインが良ければなおよし。

これはおもちゃメーカーの要請によって新型ロボが次々に登場するのがお約束になってしまっているという現状があります。しかし戦隊シリーズのシナリオは年々巧妙になっていて、新型ロボの登場もむりやりな感じがほとんどない。
昔はむりやり合体変形させるために立方体を組み合わせただけみたいなひどいデザインのロボットも多かったですが、いまはCGを多用する特撮のおかげでデザインの自由度が上がったのか、マジレンジャーでは世界観をよく表現した良いデザインです。

*敵が魅力的であること。

マジレンジャーが始まるまでは前作「特捜戦隊デカレンジャー」が最高傑作だと思っていたのですが、こちらは固定した敵組織がいないために敵の魅力という点では欠けていました。
マジレンジャーでは、超渋くて強い魔道騎士ウルザード、ゴスロリ形態と怪人形態を使い分けるバンキュリア、乱暴者の強力大将ブランケン、天空聖者の裏切り者で公家言葉を使う策士メイミーなどの個性の強い悪役が登場。それぞれ狼男、吸血鬼、フランケンシュタインの怪物、ミイラ男などのメジャー妖怪をモチーフに、原形をとどめないほどにアレンジ。

*小さい子供が見ても安心なこと。

現代日本では、ヒーローものを作ることは(シリアスな意味で)非常にむずかしくなっています。
それは全ての物事がポストモダン化(相対化)してしまったからです。

70年代初めまでは、子供番組の世界では主人公は堂々と「正義」を語ることができました。その頃は誰もが信じられる絶対的な価値、「正義」とか「大義」がまだありました。
(正確には、大人の世界では学生運動などによって「正義」や「大義」は分裂し、急速にその絶対性を失って相対化されていっていたわけですが、少なくとも子供相手には大人の建前としての正義を説く力がまだあった。)

80年代に価値の相対化が徹底的に進み、「正義」や「大義」は冗談のネタにしかならなくなります。そんなものを大まじめに語るのは右翼や左翼といった特殊な人たち、というのがおおかたの日本人の共通認識となりました。
そうなると当然、ヒーローものはパロディのネタに成り下がります。

90年代バブル崩壊後、現代日本人、特に若者は深刻なアイデンティティ危機にさらされます。これは社会的な合意のある絶対的価値観によって自己を守ることができないため、個々人がそれぞれのやり方で「自分が信じられるもの」を見つけなければならなくなったためです。
このポストモダンの進行レベルは、全世界的に見ても日本が最先端を行っているのは間違いないでしょう。

さて現在。
僕は、子供番組は「その時代の大人が子供たちに示すメッセージ」だと考えています。
全ての価値観の相対化が進み、荒涼たる廃虚のようになってしまったこの日本で、大人は子供に何を語れるのでしょうか。
そうした観点から番組を評価する時、価値観の廃虚をただ表現するだけの作品(最近では「仮面ライダーファイズ」や「ウルトラマンネクサス」など)は子供にとって有害でしかない。大人の勝手な絶望や罪を子供に押し付けるのはよせ!!と言いたい。
マジレンジャーがすばらしいのは、社会の最小単位としての家族、きょうだいの助け合いから人間の絆といったものをてらいなく描いている点です。
これこそ、価値観がどんなに相対化しようとも人間が社会的動物であるかぎり残る、正義の最小単位。そして男女間の恋愛などと違って、大きく広がる可能性を持っている。

マジレンジャーのシナリオライターがポストモダン化に対することまで意識して書いているのかどうかは分かりませんが、この辺のことを無意識にしろ理解した上で脚本を書くのと、理解しないで書くのとでは、結果は大きく違ったものになるでしょう。
というわけで「魔法戦隊マジレンジャー」は最高傑作なのです。

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