ハイボール of 茶房・風雲庵

木城家にやってきた“鉄の馬”を写真で紹介!!

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2013年8月28日 木城ツトム

VICTORY ハイボール(1731cc)


011.jpgVICTORYのボバーモデル、ハイボール2013年8月23日の嵐の夜に納車(笑)。納車までのいきさつは管理人日記参照のこと。

この「ハイボール」はエイプハンガーハンドルバー、ソロシート、前後16インチスポークホイールにホワイトウォールタイヤ、短く(ボブ)カットされたフロントフェンダーが特徴的な“ボバースタイル”のシンプルなクルーザー。VICTORY全14車種(日本向けモデル)はパワーユニットがすべて同じ(空冷V型SOHC4バルブエンジン)なので、機能面とスタイルで選ぶことになるが、私が選んだポイントは全体のシンプルさと「ツヤ消し黒」カラーのふたつ。

先月まで乗っていたハーレーFXDFダイナ・ファットボブを選んだ理由のひとつにも、この「ツヤ消し黒」があった。「黒いマシン」と言えば映画『マッドマックス』(79)で主人公マックスが駆る「黒のインターセプター」などが思い浮かぶが(黒のインターセプターは汚れていただけでツヤありの黒)、私のこだわりは子供のころに見たチープなB級SF映画『ラスト・カーチェイス』(81)に登場した「ツヤ消し黒」のジェット戦闘機、F-86セイバーが原点と見られる。今見るとそんなにカッコ良くないのだが(苦笑)当時から私はどんなものでも「ツヤ消し黒」にすればカッコ良くなると信じて疑わず、友人たちに力説するも相手にされなかったりしていた。今でこそクルマやバイクで「ツヤ消し黒」は珍しくないけれど、20世紀のころは市販車で「ツヤ消し黒」なんてありえない色だったのだ。やっと時代が私のセンスに追いついた!と思うと感無量である(笑)。

013.jpgエイプハンガーハンドル、ホワイトウォールタイヤにツヤ消しの黒が特徴さてパッと見外見上で目を引くのは、長〜く伸びたエイプハンガーのハンドルバーだと思う。エイプハンガーというよりも「ロボットハンドル」とか「Zバー」なんて呼ばれているもの(ゾク車仕様?)に近いが、直線的で幅のせまい「ロボットハンドル」と違い、ライザーから角までがゆるやかな曲線を描いていて幅もあるので、下品さを感じさせずうまくまとめている。この辺のセンスは、さすがチョッパーの本場のアメリカ人だなぁと思う。

このハンドルは初めから「立てた」状態と手前に「寝かせた」状態のポジションを取れるように作られていて、完全に寝かせるとティラーバーハンドルのような感じになる。私のはちょうど中間あたり。こんな角が立った形状で調整が自由なハンドルバーが純正品だなんて、ずいぶんと時代も変わったものだと思う。「ロボットハンドル」なんて車検が通らないパーツの代名詞的存在だったのに。

001.jpgエイプハンガー、ソロシートのシンプルなクルーザー003.jpg空冷V型2気筒SOHC4バルブの“フリーダムエンジン”004.jpgメーターはアナログとデジタルの組み合わせで多機能005.jpgサスはカヤバ、ブレーキはニッシンと日本製を採用
007.jpg車載工具は驚きののヘックスレンチ兼ドライバー2本だけ008.jpgファットボブに取り付けていたナビをこちらに移植009.jpgフェンダーレールを使ってサドルバッグを取り付けてみた010.jpgフェンダーを短く切り詰めた「ボバースタイル」モデル

012.jpg排気系は日米共通とのこと。パワフルさは充分ハンドルに限らず、写真のようにとにかくパーツのひとつひとつ、ヘッドライトからテールライトまでカスタムモデルのようにデザインされているのだが、さらに細部の仕上げも抜かりない。たとえばエンジンのシリンダーフィンもちゃんと磨かれていたりする。ハーレーのフィンのように、アルミの切りっぱなしで素手で触ると皮膚が切れる(!)ようなことがない。とは言え全体的にデザインされ過ぎていて、自分でいじりにくいと感じる向きもあると思う。

さてシートにまたがってみると、身長170cm日本人体形の私でも両足は地面にべったり。ハーレーのようにプライマリーケースが横に張り出していないので、その分足つき性は余裕がある。フォワードポジション(車体の前の方についている)のステップは私の短い足でもヒザが曲がる自然な位置にあって、大柄なアメリカ人の設計にしては日本人に優しい(笑)。シートは薄く見せているデザインだが座面が大きくフカフカ、わずかに前後の自由度もあり、ちゃんと長距離走行のことも考えられている。

ハンドルの根元というオーソドックスな位置にあるスピードメーターは、アナログの速度計と、デジタル表示部にギアポジションが大きく表示され、オドメーター、トリップメーター、タコメーターを手元のスイッチで切り替えられる。グリップ部は右にセルスイッチとキルスイッチのみ、左にウィンカー、ライト上下切り替え、ホーン、ハザード、メーター切り替えスイッチと操作系は左側に集中させている。ハーレーに比べるとボタンが小さめで数が少ないように感じるが、もちろん必要充分だ。

あと細かい点では、ハーレーに比べるとサイドスタンドが出しやすい(笑)。サイドスタンドを出したまま押して歩けるのも(普通のバイクでは当然なんだけど)ハーレーにはない特色だ。おかげで取り回しはすこぶるやりやすい。

015.jpgフューエルタンクから続くシートは薄く見えて肉厚があり、乗り心地は快適メインキーを回してセルスイッチを押すと、シュルルルブルルルルルッと非常に静かにスムーズにエンジンがかかる。マフラーの排気音に関係なく、ハーレー始動時の爆音ノイズに慣れていると拍子抜けする静かさだ。ノーマルマフラーの排気音も静かだが、低音が効いていて大排気量車の迫力は損なわれていない。むしろハーレーよりもメカノイズが少ないので、その分排気音が良く聞こえるように感じる。

深夜の高速を100kmほど走ってみたが、当然ながらハーレーダイナ・ファットボブに比べると震動は圧倒的に少なく、下からのパワーもあって余裕があり、スムーズに走れるので疲れがこない。とは言え6速で走行中でも、アクセルをひねればダダダダダとパワー感のある震動が手や足に伝わってきて、ググィッと余裕でダッシュしていく。コーナーもハンドルが高いためか上半身をひねりやすく、安定していて楽しい。何よりハンドルが軽くてキレがいい。

そして日記の方でもさんざん書いているが、ブレーキがフロントもリアも軽いタッチでシュッ!ピタッ!と効くのが何より感動的。VICTORY車に比べると、ハーレーのブレーキは「??」と思うくらい効かないのだ。古い車種なら仕方がないと思うが、現行車であの効きの悪さは疑問であり謎だ。ついでなので、ここでハーレーFXDFダイナ・ファットボブ(09年型)に4年乗って疑問に感じた細かい点をまとめてみる。

winker.jpg●ウィンカースイッチ
ハーレーは左右のグリップにウィンカースイッチがあって、右に曲がる時は右グリップのスイッチ、左の時は左のスイッチという独特な仕組み。これがアクセルをヒネリながら右に車線変更をする時(高速道路の合流など)、指がスイッチに届かないという事態を招いてしまう。写真はサードパーティ製のエクステンションカバーをつけている。最近になって純正の長めのスイッチパーツがリリースされたが、こんなものを修正するのに100年かかったのか。おそ過ぎる。

stand.jpg●サイドスタンド
ハーレーのサイドスタンドは出しにくいことで有名だ。なにしろ純正のエクステンションパーツが用意されていて、新車購入の時、私も勧められたくらいなのだ。しかも(坂道で外れないように)ロック機構があるために、スタンドを出した状態では地面をガリガリすってしまって押し歩きができない。いちいちまたがってスタンドを出したり収めたりしなければならないのだ。ハーレー伝統の仕組みなのかも知れないが、100年かかっても改良できないのか。おそ過ぎる。

break.jpg●ブレーキ
もっとも疑念を感じるハーレーのパーツはズバリ、効かないブレーキだ。私が乗っていたファットボブは、フロントがダブルディスクなのに効きが悪かった。フロントサスが沈むため効きが悪く感じると言われるがはなはだ疑問。ブレーキは不満なら交換すれば良いというものではなく、命に関わる部分なのだから、はじめからきちんとしたパーツをつけるべき。エンジン特性なら「伝統」や「味」で語れるが、ブレーキはそうはいかない。100年もほったらかしとかどういう判断なのか。

014.jpgハーレーにはない「常識」で作られたVICTORYのバイクまあハーレーの気になるところを挙げてたらキリがないのだが、そんな「出来の悪い子」ほどかわいいという心理が、ハーレーユーザーにはきっとある。というか私にはあった。またハーレーのエンジンのねっとりと濃厚な赤みそのような味わいは、数値ではわからない100年の歴史の積み重ねなのだろう。対してVICTORY車のエンジンはシャッキリとしたしょうゆ味と言ったところで、現代的なキレとVツインのコクを両立させていると言える。

今や世界的なクルーザーブームで、英国のトライアンフもイタリアのモトグッツィも、そして日本の4大メーカーもクルーザーモデルに力を注いでいるが、さすがに“巨人”ハーレーに真っ向勝負を挑むなんて大それたメーカーはVICTORYぐらいしかないと思う。そしてクルーザーが生まれた「本場」アメリカのメーカーだからこそ、巨人に肉薄できるのではないかと期待しているのだ。