ゆ き と の 書 斎

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レビュー(本)

2007年07月26日
『隣之怪 木守り』

・『隣之怪 木守り』
木原浩勝 著

『新耳袋』の著者の一人、木原氏の実話怪談集。
たくさんの短編が集まった形は新耳に近いが、話者(体験者)の一人称の語り、ですます調の文のために新耳とは印象がだいぶ違う。
アマゾンのレビュー点数は中山氏の『なまなりさん』よりも低かったが、僕としてはこっちのほうが「実話怪談として」気に入っている。
たしかに敬語調の文、話者のよけいな修辞や感想などが鼻につき、最初は読みづらい。
新耳や超怖が新しい時代の実話怪談として成功したのは、文体も含めた「ドライさ」にあると僕は考えている。
それからすると、ウェットな敬語調の文体は退化しているとも受け取れる。
これは(「なまなりさん」や最近の超怖シリーズも含め)モチーフに因果応報的な呪い・祟りの話が多くなっていることとも関係して、けっこう根が深い問題ではないかと思う。
映画の『リング』や『呪怨』のヒットに引きずられただけかも知れないが…。

僕がこの『隣之怪』がよいと思う理由はひとえに、収録されているエピソードにいくつか「おいちい」話があるからだ。
特に「記憶」という話は神隠しに類する話だが、予想を裏切る展開といい、一筋縄ではいかない。
子供の頃に読んだ中岡俊哉先生の「恐怖の四次元館」を思い出した。
幽霊も凄惨な死体も出てこないが、僕にとってはここ半年で読んだ中でもっとも怖い話だ。

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