ゆ き と の 書 斎

気まぐれゆきと帳過去ログ一覧

読者からの質問-2/4

2006年01月20日 Q:「スター・トレック」をどう評価していますか?

>Ivanさん
>お二人は「スター・トレック」をどう評価していますか?

一番最初のテレビシリーズは大好きでした。ジェイムズ・ブリッシュの小説版も中学生時代の愛読書でした。

劇場版ははじめの方の2~3作しか観てないです。
だんだん安っぽくなっていって観るにたえなかったですね~。
スタトレはアメリカ人にとっての寅さんなんだな~と思いました。
その後のメンバーが替わってからのテレビシリーズは見てないです。

2006年01月20日 Q:宇宙の果てはどうなっていると思いますか?


>popopoさん
>私は宇宙が好きで、ない脳味噌使ってで考えているのですが
>たくさんの惑星の果て銀河の果てビックバンの果て人の見えない領域には…。
>本だと宇宙が始まる前の揺らぎのない世界←つまり何もないってこと?
>それとも宇宙みたいなのがあって安定してたってこと…。
>ツトムさんユキトさん考えを聞かせてもらえないでしょうか

はじめまして。(^_^)
僕も子供のころから宇宙が好きで、魂ははるか24万8千光年の彼方に行ったっきりでしたよ。
学校とかで「星座をおぼえましょう」とか言われると「ばかくせえっ!!」と思って。
だって星座なんて地球から見た星の配置にすぎないもん、別の星から見たら星の配置も変わってしまう。そんな地球ローカルなことおぼえてられるかっ!!とか思ってました。

宇宙の果てがどうなっているかとか、宇宙の始まりと終りについて考える理論のことを「極限宇宙論」というらしいですが、僕は中学生のころはこういうことで頭がいっぱいでした。
同級生が異性や受験や部活のことで悩んでいる時に、相対性理論やビックバン宇宙やブラックホールやホワイトホールのことで悩んでいる中学生…かなり変わっていますね。
(^-^;)
中学生の時は相対性理論は理解しようとしてできなかったので、自由に想像を膨らませました。
宇宙の果てには強固な壁があって、ビックバンの光がそこで反射して戻ってくる。それが宇宙の終りになる…というアイディアで小説を書こうとしたこともありました。

高校生の時に、相対性理論の肝である「空間歪曲と質量とエネルギーは同じものの違う現われである」ということが体感的に理解できたので、現代物理学での宇宙の果ての説明「宇宙は歪曲していて、果てに行った宇宙船は戻ってきてしまう」「果ての向こう側は存在しない(真空ですらない)」という言葉もなんとなく飲みこめました。

極限宇宙論は現在も次々に新しい観測事実や新しい理論が登場しているエキサイティングな学問です。
最近ではアインシュタインが「生涯最大の失敗」としたはずの「宇宙定数」が復活してきたりして、目が離せません。
まあ本当のところは誰にも確かめようがないから、いくらでもホラがふけて面白いんですけどね。

僕が最近読んで腰をぬかした、お勧めの本は。

「心は量子で語れるか」
R.ペンローズ著 講談社ブルーバックス
第1章でペンローズが宇宙論を語っています。ミクロの理論である量子力学とマクロの理論である相対性理論を統一しようという壮大な試み。ちょっと専門的にすぎるかもしれません。上級者向け。

「光速より速い光」
ジョアオ・マゲイジョ著 NHK出版
インフレーション理論にとってかわろうとする光速変動理論を提唱する若き科学者の物語。砕けた文体で、読み物としても面白いです。

2006年01月22日 Q:ゆきとさんはジョジョ好きなのですか?


>海苔ヴェノムさん
>ゆきとさんはジョジョ好きなのですか?

なにをかくそう、僕は筋金入りの荒木飛呂彦ファンです。(^_^)v

手塚賞に入選した「武装ポーカー」をジャンプで読んだ時からのファン。
(ペンネームが違っていたので、「魔少年ビーティー」「バオー来訪者」を描いた荒木先生のデビュー作だとは気付きませんでした。
86年ごろ「ゴージャスアイリン」を含む短編集に載っているのを見て、初めて同じ作者だと気付きました。)

単なるファンというだけではなくて、おなじ漫画描きとして、荒木先生の仕事を尊敬しております。

2006年01月22日 Q:シンクロニシティって不気味ではないですか?


>美村蔵親さん
>シンクロニシティって不気味ではないですか? 

不気味とゆーか、すっげー不思議に思いますね~。
自分では「このアイディアは俺が独自に考えたんだぁっ!!」と思ってるんだけど、「本当は誰かに操られて描かされてるんではないか?」とか思ったり。
自分の自我とか自意識というものは幻なんではないかと疑ってみたり。

>キャラ応募したクロエはLO5巻が出る少し前くらいに下描きを終えていたのですが、
>6巻でカエルラが袖から手裏剣を発射したのを見て、
>「ペンシルミサイルの発射機構はいける!」と思いました。

袖から手裏剣を打つのは僕の独創ではなくて、中国拳法の暗器の伝統的な使い方ですから。
(^-^;)
かの有名な李書文も座興の席で袖の手裏剣術を披露したという記録もあります。
ちなみに、バネ仕掛けなどで手裏剣を発射しているわけではなく、発勁の要領で前腕に装着している手裏剣を打つらしいです。

2006年01月27日 Q:軌道エレベーターの元祖は銃夢ではないのですか?


>きあつさん
>あのー、地球宇宙間エレベーターがアメリカの会社で開発されてたようですが、
>元祖は、銃夢だと思うのですが、SFが現実になるのが速いと思う今日この頃。

軌道エレベーターのアイディアは古くからあります。
ロケットの父といわれるツィオルコフスキーが19世紀末に書いた本の中の記述が最古のものと言われています。
詳しくはこちらを参照してください。軌道エレベータ
(しかし宇宙空母ブルーノアにまで軌道エレベーターが登場していたとは知らなかった…。)

2006年01月27日 Q:宇宙都市ツィグの下にもザレムが有るんですか?


>バーサーカー佐藤さん
>宇宙都市イェールの下には、ザレムが有りますが、宇宙都市ツィグの下にもザレムが有るんですか?

ツィグの地上側都市は「グラート」です。あわせてziggurat、つまりジグラッドです。
あれ、どっかに書かなかったっけ…と思ったら銃夢LO3巻80p欄外に書いてあるじゃないですか。
(^-^;)

2006年05月19日 Q:ゆきと先生と、ツトム塾長は喧嘩したりするのでしょうか?


>バーサーカー佐藤さん
>つーか、ゆきと先生と、ツトム塾長は喧嘩したりするのでしょうか?


僕は生まれつきワガママ大王なので、高校生ぐらいまで、よくつーちゃんをいじめてケンカしましたね~。

世の中全般にいえることですが、兄弟ゲンカが起きた時は、八割の確率で兄貴のほうが悪い。
ケンカの理由なんか調べなくても、だいたい兄貴のほうが悪い。

二十歳前後のころにその真理に気付いてしまってからは、あんまりケンカしなくなりました。
違う意見の時はよく議論はしますが。
これは木城家の家風なのでケンカとは別です。

2006年07月25日 Q:SF小説に挑戦してますがアイディアが浮かびません。


>アレンちゃん さん
>木城先生の銃夢を読みながら、俺もこんなスゲェSFが書きたいと思いましてSF小説に挑戦してますが。
>でも書けない。
>アイディアが浮かばない。
>浮かんでも話がつながらない。
>もしも、そういう事があったとき、木城先生ならどうされますか?。
>教えてください。


すでにIvanさんの的確なアドバイスがなされていますので蛇足ですが、僕なりに答えますと。
…正直言ってアレンちゃん さんのような悩みは僕も常にありますよ。
(^-^;)

特に今回の外伝のような、短編を描く時は苦しみますね。
連載漫画のような、長編はいろいろとごまかしがきくのでまだ楽ですが。
ピュアなアイディアとシンプルな構成でできた美しい短編を僕も描いてみたいとは思うんですが、どうも苦手で。

僕の場合、なんだかんだとすでに30年ぐらいの蓄積があるので、いろいろとずるっこい手練手管を駆使してムリヤリ作品にしてしまったりできます。
鬼面人を驚かすようなアイディアはもともと僕の得意分野ではないので、それ以外の演出やテーマの掘り下げの部分で満足度を高めようと工夫したり。
なんか話がつながらない時は、「魂の叫び」で強引でつなげてみたり。
*いいわけみたいですけど、互いにつながらないように見えるものを強引につなげるのも作劇法のひとつです。それが意外性やモチーフの深みを生んだりします。十分な説得力がないと破綻しますが。このへんは場数を踏んで体得するしかないです。

もうちょっと具体的なアドバイスをしますと。(トミタさんの受け売りですが)
描きたいモチーフを印象的な「ひとつの言葉」、あるいは「ひとつの絵」「ひとつのシーン」に絞り込み、それをラストに持ってきて、そこに至るまでの過程を描写するという方法があります。
有名なスタージョンの「空は船でいっぱい」みたいに。
このやり方ではモチーフをひとつに絞り込めるかどうかがキモです。
がんばってみてください。

2006年08月21日 Q:LO9巻を読んでいて、ストーリーの大枠がアイザックアシモフのロボットシリーズに似てるって思いました。


> じむじむさん
> LO9巻を読んでいて、ストーリーの大枠がアイザックアシモフのロボットシ
> リーズに似てるって思いました。
> SFの古典ロボットシリーズを現代用に巧くデフォルメしたのでは?って思いま
> すが皆さんいかがでしょうか。

不勉強にも、僕はアシモフをちゃんと読んでなかったので、それは知りませんでした。
(^-^;)
高校の時、図書室にあった海外SF大全集を読破しようとしてましたが、その時に「鋼鉄都市」を読んだような読まなかったような…記憶がはっきりしませんね~。
ロボットもので意識的に影響を受けたのは、スタニスワフ・レムの「宇宙創世記ロボットの旅」ですね。
「サイバネ技師」などの用語はこの作品の影響です。
でもアシモフへのリスペクトとおぼしき実写映画「サイレント・ランニング」が好きだったから、隔世遺伝みたいな影響はあるのかもしれませんね。

2006年08月21日 Q:銃夢LOでは音楽ネタが少ないですね?


> BLACKOUT さん
> そういえば、LOになってからはそういう音楽ネタが少なくなった気がするの
> は私だけでしょうか?w

やりたいのはヤマヤマなんですが、権利関係でのちのち複雑な事態が発生する事が多いので、銃夢LOでは洋楽の歌詞などを使わないようにしています。
旧銃夢5巻でガリィが歌うYES「BIG GENERATOR」は北米版発売の際に掲載許可が下りず、翻訳者の方によるオリジナル歌詞となりました。
その後「銃夢完全版」収録の際にも掲載許可を取るためにトミタさん以下集英社のスタッフがかけあってくれたのですが、YESはメンバーが離合集散を繰り返す事で有名なバンド。(汗)
権利関係は複雑怪奇で、マネージメントに山師みたいな会社がからんでいて連絡がつかなかったりして、結局「BIG GENERATOR」の掲載をあきらめ、北米版のオリジナル歌詞を収録する事で妥協せざるを得ませんでした。

2006年10月19日 Q:銃夢の文庫化はしないのでしょうか?


> ゆみこさん
> ところで銃夢の文庫化はしないのでしょうか?

以前文庫化の企画が来ましたが、断りました。
線が細かいので潰れますし、部数が少ないので本屋さんが置いてくれるとは限らないし。
実は旧銃夢を銃夢LOと同じ判型の新装版を出す計画が何年も前からあるんですが、僕が新装版用のカバーイラストを新たに描き下ろさなければならないので、ずっとお預けになってます。
春先に雑誌連載を休載した時も、外伝のほかに余った時間を使ってカバーイラストを描く計画だったのですが、「馬借音頭」の大幅なページ増&調子の悪さのために頓挫。

2007年01月27日 Q:ガリィって身長150センチしかないんですか?


> Ivanさん
> ガリィってそんなにちっこいんですか?
> 少なくともあと5センチはあるように見えますが…。

150センチと155センチの違いをマンガで出すのは難しいですね~。
画面には遠近感がつきますし、ガリィは主人公なのでカメラの位置がガリィの目線より低くなる(ガリィを見上げる構図になる)ことが多いですからね~。
実生活では、相手の目の位置が自分より1センチ高いだけでずいぶん大きく感じるものですが、マンガではそのまま描いても伝わらないんです。
そのために敵を身長3メートルぐらいに描いたり、6頭身のキャラの中に3頭身のちびっこいキャラがいたり、というマンガ独特の誇張表現が発達しました。
(「あしたのジョー」で力石初登場の時にちばてつや先生が誇張表現で力石を大きく描いたのを梶原一騎が真に受けて、減量苦のエピソードが生まれたというのは有名な話。)

でも銃夢ではあまり大きさの誇張表現はしていません。マカクがでかいのはほんとに身長4メートルあるからだし、ぷちゼクスが肩に乗ってるのは実際10センチぐらいしかないから。
拳銃などは迫力を出すために1割ぐらい大きめに描く事もありますが…。

ちなみにガリィのボディは交換されているので、ボディによって最大10センチぐらいの身長差があります。
一番小さかったのが発掘時のボディ(陽子の戦闘ボディ)とイドが復元した1話のノーマルボディでぴったり150センチ。
一番背が高かったのがモーターボールの時の機体で160センチぐらい。これは足のホイールのため。
現在のイマジノスボディは153センチぐらいと想定してます。
これにブーツのソールの厚み2センチ、髪の毛の厚み2センチを加えると、見かけ上157センチぐらいにはなりますね。

2007年01月27日 Q:絶火のモチーフはスズメバチですか?


> タンニさん
> やはりモチーフはスズメバチだったんですね~!!

はじめっから決めていたわけではないです。
絶火の登場は5年前のレヴァイアサン1空手家3連戦を描いた時から予定していて、ラフスケッチをたびたび描いてきました。
複眼にする事は早くから決まっていたんですが、髪はラフスケッチではトゲトゲでした。
実際に原稿に描く段になってデザインをリファインした段階で、トレッドっぽいスタイルと縞々を入れました。
ここでスズメバチっぽくなったので、そのイメージを強調した感じにしました。
実は顔面の造形のフォルムはアルムブレストと同じラインなので、差別化をはかるのに苦労しました。
バイクに乗って登場するし、仮面ライダーっぽいっすね。カラテライダーか。

2007年02月21日 Q:作品を作る際のインスピレーションは何から受けますか?


さて、今回のお題はマチュさんからいただいた質問
「作品を作る際のインスピレーションは何から受けるのか?」です。

非常にむずかしい質問ですね~。
いや、別に川村君が言ってるように「秘伝のタレは門外不出じゃ~!!」とか、そういう理由で秘密にしているのではないです。
僕が作品を作る際に秘密にしていることは何もないですから(現在進行中のストーリー以外)、質問されればぜんぶ話してしまっていいのですが、説明するのがむずかしい。
僕の場合80%ぐらいは非言語的プロセスで作品を練るので、それを言葉に翻訳して人がわかるように説明するのがむずかしいのです。
仕事終わってから1週間、このことをどう説明するか、折りにつけ考えていました。
とりあえず現時点で言葉にできそうなことを述べてみます。

まず、「インスピレーション」という言葉を「情報の入力と出力」という観点からとらえてみます。
方程式にすると

B=A×t(x)

Bが出力された情報(つまり作品)、Aが入力された情報(ここでは大ざっぱにくくってインスピレーション)、tが時間、変数xが作者の精神(経験・思想・世界観をふくむ)。
(僕は数学はぜんぜんダメなので、もっと上等な方程式を考案された方は訂正してください。)

方程式に時間「t」が入っているのを不思議に思う人がいるかもしれませんが、僕はこれを重視しています。
これは入力された情報「A」を作者の脳内でミキシングして発酵熟成に使う時間と考えています。
ワインのようなもので、寝かせれば寝かせただけよくなじみ、うまみが出ます。

もちろん例外もあって、入力「A」が非常に変わったものならば時間「t」精神「x」の値が小さくても出力「B」は変わったものになります。
入力「A」が凡庸な情報で、時間「t」の値が小さくても、精神「x」のパラメーターが大きければ出力「B」は誰も見たことのないものになりえます。

分かりやすく説明しようとして方程式を出したら、ますますわかりづらくなってしまったな。
(^-^;)

僕の現在の仕事「銃夢LO」を上記の書式で解説すると、だいたい発酵時間に5年から20年はかけたものをつかって描いています。
発酵に20年もかけると、もはやグツグツと分解しきって作者の血肉に染み渡り、その人間そのものになってしまうので、元ネタがなんだったのかなどもう思い出せません。

インスピレーション入力から作品製作までの理想的な流れをマンガチックに描写すると以下のようになります。


1. 「おおっ、すげえっ!!このネタはイタダキだぜっ!!」
…>インスピレーションゲット。

2. 「なんかすごいネタがあったけど忘れたぜっ!!」
…>数年から数十年経過。表層意識では忘れているが、右脳/非言語領域/無意識下レベルでは情報の発酵熟成が進んでいる。

3. 「おおっ、すげえアイディアが出たぜ!!俺って天才!!」
…>製作の必要に迫られて無意識下から発酵の進んだ情報が表層意識に上がってくる。


というような感じでしょうか。
なんか説明が泥沼になってきたのでこの辺にしときます。
元の質問の趣旨から外れたような気もするのですが、(汗)
具体的な質問をくださればさらに違った角度から解説できると思います。

> オクテットさん
> たぶんtの中にはsinかcsin関数が混じってませんか?
> 付け足しですがAの中には収束する級数が混じっていないかと思います

前回の僕のインスピレーション方程式B=A×t(x)に対するご指摘ですね。
すいません!!
関数とか級数とかわかりません!!バカでごめんなさい。
オクテットさんなりの方程式の完成形を示してくださると、そこからまたおもしろい議論ができるかもしれませんね。


2007年02月24日 

マチュさんからいただいた質問
「作品を作る際のインスピレーションは何から受けるのか?」を前回
僕なりに回答してみたわけですが、アップした後になって、なんかぜんぜんズレたことを言ってしまったような気がしてきました。
質問の中に「作品」という単語があったので、「自分の作品作りのおおもとに関わることとはっ…!?」みたいに大げさに考えすぎて、回答に詰まって、あげく方程式を持ち出してみたりして。

前回のは深いレベルの話だったので難解になってしまいましたが、もっと浅いレベルの話を今回はしようと思います。


[例1]
・水死者を探索するダイバーのニュースをラジオで聴いた。これから短編「怪洋星」ができあがった。

「視界のきかない濁った水中を潜水して水死者を探すなんて、怖いだろうな~」というのが発想の発端。
これに深層心理の洞察や、"夢か現実かわからない"という現実感の喪失、生物から無機物へというサイボーグ思想、自分が狂うことへの恐怖などを絡めて作品化した。
短編は構造が単純なのでインスピレーションもシンプルなものが多い。
逆に長編作品は複雑な構造を持っていることが多いので、インスピレーションを一言で言い表せないことが多い。

[例2]
・布団の中で考えていて突然、軌道エレベーター/空中都市ザレム/クズ鉄町のイメージができた。

「天啓」という意味のインスピレーションの例。
辞書に載っているインスピレーションという言葉の定義"直感的なひらめき・霊感"に一番近い。
しかしこれは解説するのは困難である。
あえて解説するなら、「軌道エレベーター」「空中都市」「スクラップだらけの町」という個々のイメージは以前から広く知られていた。
それらを有機的に結びつけ、サイボーグの生息する架空世界の生態系として説得力のあるイメージにまとめ上げたというのがこのアイディアのミソである。
もうひとつの説明としては、島本和彦先生の提唱する仮説
「宇宙から降りそそぐアイディア線」を受信したという可能性がある。(笑)

[例3]
・タランティーノの映画「キル・ビルvol.1」の100人斬りを観て発奮し、銃夢LO-6巻の「虐殺通路」のシーンを作った。

陽子がイェールの通路で生身の警備兵約40人をミンチにするシーンである。
解説の必要もないほど分かりやすい影響である。
まぁ元々僕には暴力描写の渇望があるので、キル・ビルを観なくても似たようなシーンは描いたかもしれない。
「タランティーノがやりやがった!俺も負けていられねーっ!!」という感じである。

[例4]
・「ワンダーJAPAN」2号の「タコすべり台」の記事を見て「タコすべり台サイコー!」と思い、さっそくマンガの背景に出した。

「ワンダーJAPAN」とは三才ブックスが発行している奇想天外建築を扱った不定期刊行ムック。現在3号まで出ている。
問題のシーンは銃夢LO-9巻、PHASE:55の孤児院「ほうき星園」の中庭に鎮座するタコすべり台。
タコすべり台サイコー!!と声を大にして言いたい。
世界に誇る戦後日本の造形美である。
タコすべり台を題材にして一本作品を描きたいぐらいだ。
タコすべり台LOVE


どうでしょうか。下に行くほど卑近で分かりやすい例になっていますね。
(^-^;)

ふだん生活して見聞きしていることすべてがネタ元の情報源になりうるのですが、やはりあまりに日常的で当たり前のことはネタになりません。
非日常的なことやモノ、人間性/社会/自然の真実をかいま見るような出来事、に遭遇して想像力を刺激されるような時、「ひらめき」という意味のインスピレーションが訪れます。
そのためには、常に好奇心を持って驚く心、「なぜなんだ~?」と思う探求心、既定概念にとらわれずに自由に空想する心が必要です。
絵の技術は教えられるし知識は増やせるけど、好奇心、探求心、空想心はどうやら生まれつきのもので、人に教えることはできないようです。

ただ、すばらしいインスピレーションがそう毎回都合よく訪れてくれるわけではありません。
描きたい時にだけ作品を作る芸術家ではなく職業漫画家なので、インスピレーションがなくても毎回の連載は描かなくてはならない。
締め切りはインスピレーションを待ってはくれない。
それでも毎回高いアベレージでアイディアを出し、テーマを決め、シーンを構成し、背景やキャラやメカのデザインを決め、作画して原稿を上げなければなりません。
そこで前回書いたような「仕込んで寝かせた20年もの」の蓄積が生きてくるというわけです。


あと川村君が言ったような意味での「ネタ元」は僕は音楽や本から受けることが多いです。
このゆきと帳では映画やゲームの感想はよく書きますが、本の感想はあまり書きません。
実際は硬軟取り混ぜてたくさんの本を読んでますが、やっぱりおもしろいと思った本でも、
知られると今後の銃夢LOの方向性がバレるかもしれない、と思って秘密にしておきたいという心理がありますね。
「味噌は秘伝」というヤツですか。

2007年02月24日 Q:銃夢LOの最終回までのストーリーは大体決まっていますか?


> バーサーカー佐藤さん
> ゆきと先生は銃夢LOの最終回迄のストーリーっていうのは大体、決まっている
> んですか?

一応こういう形にしたいな~というものはあります。
でも長編連載というのはパラシュートをつけて高空から飛び降りるようなもので、
手足をばたつかせて多少の制御はできますが、あまり正確な着地点は決められないし、
決めても意味がないのです。

2007年02月24日 Q:銃夢LOはあとどのぐらいで終わる予定ですか?


> Ivanさん
> ゆきとさんはLOをあと何年、あと何巻でおわる、というめどは立っているので
> しょうか。

ぜんぜん考えてないですね~。
ただ、旧銃夢のように禍根の残る終わり方は死んでもいやなので、
「もう銃夢で描くことはなくなった」と自分で納得できるようにして終わりたいです。
「文明復興編」を単行本2巻分かけて描いたことにいろいろ批判もあるでしょうけど、
後になって悔いるのはいやだったので、ああしました。

2007年03月19日 Q:先生は大量の蔵書をどのようにしまっていますか?


> KKKさん
> 部屋が専門書や小説で一杯で、限界に近づきつつあります。
> 先生は、その辺のことをどうやって解決しているのですか?。

仕事場の隣に資料保管庫があり、そこに移動書架が据え付けてあります。
2階なので床が抜けないようにこの部屋の下だけ重量鉄骨で組んであります。


資料保管庫入り口から見たところ。

このハンドルをぐるぐる回して移動します。


壁際にも本棚を設置しています。

「ゆきとの書斎」の「仕事場大公開」に載せなきゃね。
僕が若かったころ、連載をとれる前はお金がなくて、ほしい本を見つけても買えないことが多くて泣いたものでした。
(;_;)
持ち込みで東京に出て、神田の本屋街を目の当たりにして、「いつか出世したら、現金100万円とカートを持って本を買いあさってやる!!」と誓ったものでした。
お金が自由になるようになっても、今度は時間が自由にならなくなって、いまだ野望は達成してません。

2007年03月19日 Q:銃夢LOの単行本の製本がゆるいです。


> silentゼクスさん
> 実は単行本のLOを何回か読むと、中のページがはがれてきてしまいます。

申し訳ないです。
編集に改善要求出しておきます。

2007年03月20日 Q:ジャシュガンの腕のギミックの名前は?


> ところでジャシュガンの腕のギミックって武器の一種だと思うのですが、
> なんて名前ダロウ?螺旋回転刃?

グラインダー・アームですね。

2007年03月24日 Q:ガリィのモデルになった実在の人物はいるのでしょうか?


> タンニさん
> ガリィのモデルになった実在の人物はいるのでしょうか?

モデルはいませんね。
中学の時の初恋の女性もぜんぜんガリィとは似てないし。
外見的特徴は漫画的デザインの必然性から作られています。
ロングヘアーだと戦闘のとき描くのが大変だから、ショートにする、などですね。
タコ口や小柄なのは幼児を連想する特徴なので、戦闘における強さとのコントラストを生んで面白みを出すためです。
僕はガリィを中性的にとらえていて、女性としては意識していません。
だからこそ自分を投影して、内面を描けるわけですが。

2007年03月24日 Q:先生の一ヶ月の日程って、どんな感じなんですか?


> バーサーカー佐藤さん
> 一ヶ月の日程って、どんな感じなんですか?

月下旬最後の1週間をネームに使って、月末につーちゃんに来てもらって実作業突入。
15日前後まで仕事、という感じですね。

2007年03月24日 Q:自分の作品を見返したりしますか?


> マチュさん
> 先生ご自身はご自分の作品を見返したりはするものなのでしょうか?

僕はトミタさんに言わせれば、非常によく読み返すタイプの作家だそうです。
他の作家さん、たとえば鳥山明先生などは、まったく自分の描いたものを読み返さないんだとか…。

僕はふだんも銃夢LOはよく読み返します。
さすがに旧銃夢は読み返さなくなっていたのですが、
前回・前々回の仕事のとき、大量に昔のキャラが登場するためにやむなく昔の単行本を参照しました。

絵がヘタすぎて、死ぬかと思いました…。orz
あああ、よくあんなヘタな絵を世間にさらしてたもんだな俺。
衝撃だったのは、97年ごろの銃夢外伝の絵もすでにヘタクソに見えてしまうこと。
あんまり見てると鬱になって切腹したくなってくるので、適当に見てあとは想像で補って原稿を描きました。

2007年03月24日 Q:旧銃夢から銃夢LOへテーマが変わったりしましたか?


> マチュさん
> また、年月を経てますが、そんな中でご自分の作品を見直す中
> (仮にあるならば)、改めて見直したりとか、旧作銃夢から現銃夢への
> テーマまたは表現したい事への改変??などはありますでしょうか?

またまたマチュさんにむずかしい課題を出されましたね~。

旧銃夢と銃夢LOのテーマまたは表現の違いについて。

旧銃夢の初期は毎回テーマの違う短編ものという感じでしたが、
その後クズ鉄町・ザレムの成り立ち、謎の宇宙世界や陽子の過去などを
描くためにはスタイルを変えていかざるをえないわけです。

その変えていく部分をネガティブにとらえるのではなく、ポジティブな可能性としてとらえる。
旧銃夢がニュートン力学なら、銃夢LOはそれを包括する相対性理論でなくてはならんのです。

謎に回答を与えて消去法でつぶしていくと、
きわめて論理的な理路整然とした物語なり設定になりますが、それではおもしろい物語にはならない。
結末に向かってどんどんつまらなくなっていく。

理で割って、割り切れず余りが出るところに物語の醍醐味があるわけですよ。
理で割れる物語はたとえると数学の方程式ですから、ちょっと聡い読者には簡単に先が読めてしまう。

理で割れないものが人間の魅力。だから物語に必要なのは魅力的な登場人物。
筋の上で必要な役割を超え出てしまうような過剰さをもったキャラが必要です。

とはいえ、LOでヴァンパイアという設定を出す時はかなり勇気がいりました。
(^-^;)
Pボックスもさんざん仕掛けを張っておいて、いざ起爆装置を押す時はちょっと悩みましたね~。

なんかまた質問の趣旨から離れているよーな気がしますね~。

昔トミタさんとの打ち合わせで僕がよく使っていた言葉に、「銃夢コンセプト」というのがあります。
これは銃夢の物語世界を構成する最低限の骨組みとルールのことで、製作作法の部分まで含んでいたので
(たとえばトミタさんが突拍子もないことを言い出すことも考慮に入れていた)、
一言で言い表すのはむずかしいのですが、
このコンセプトの内部ではいくらでも融通がきくようになっているのが特徴です。

たとえば、旧銃夢第1話でトミタさんの入れ知恵により機甲術が生まれ、
クズ鉄町では銃器は違法という設定ができてしまった、というのは有名な裏話ですが、
これはコンセプト内のことなので設定の変更に抵抗感はないのです。

もちろん一度作品に描いてしまった設定は残るので、だんだん自由度は減っていきます。
それでもクズ鉄町を一歩出れば銃器の制限はなくなります。
またザレムでは異なったレベルのテクノロジーと管理社会が存在します。

こうした舞台ごとに物語上の設定を独立させる方法は「装甲騎兵ボトムズ」の影響です。
銃夢コンセプトではこうした「オブジェクト指向」をキャラクターや設定や個々のエピソードにまで徹底して、
融通無碍、自由自在に構成することを目的にしています。

銃夢LOではこうした「銃夢コンセプト」を受け継ぎつつ、新たに拡張したスタイルを使っています。
それはたとえば、結論めいたこと、悟ったようなことを登場人物がはじめに言ってしまう。

例を挙げると、ガリィの「脳チップでも人間は人間だ」とか。
ここでの主張は登場人物一個人の立場に基づいた発言であって、作者の僕も本当にそうかどうかはわからない。
(僕の作品のキャラの発言はすべてがそうです。キャラの発言=木城ゆきとの考えではない。)

そこで「ん~?本当にそうかなぁ~?」と、様々に反証する事件や試練、新たな登場人物との戦いを起こす。
ガリィが試練を乗り超えたり様々なアクションをしていく中でその主張の真偽が問われていく。

つまり、思考実験ですね。
本当の結論がどうなるかは僕もわからない。

ただし「銃夢コンセプト」の大原則の1として、「主人公だけは最後まで死なない」というルールがあるので、
ガリィは死ぬよりつらい目にあってもラストまで死にません。

2007年03月24日 Q:銃夢を描く上で先生の信条はなんですか?


> マチュさん
> 銃夢を描く上で、先生の信条のようなものが(お困りでなければ)
> あるならば、ちょっと訊いてみたかったりします。

銃夢を描く上での信条はですね~。

銃夢に限らずなんですが、毎回「死ぬまでに言っておきたいことを何かひとつ描けたか」、
つまりかっこよく言うと、明日ポックリ死んでしまっても思い残すことのない作品を描こうと…。
いや~思い残しまくりで、最終回前に死んだら化けて出ること確定ですけどね~。

でも95~96年ごろ精神的危機に陥っていろいろ考えたわけですよ。
「なんで俺はこんなつらい思いしてまで漫画を描かねばならんのか…」とか。
「現代社会ではすさまじい量の物語が毎日消費されている。なんでみんな作り話を欲しがるんだぁ~!?」とかね。

あぶなかったですよ。

漫画家やめるかとか、木城ゆきとという名前を捨ててアシスタントからやり直すかとか考えました。

特に「なんで作り話を欲しがるんだ?」という疑問は、物語の作り手として、
再起不能になる危険を含んだ問いかけでした。

悩んだ結論は、水中騎士の最後の方にちょっと出てくるように
「物語とは、人間の生きる糧そのものなんだ」というものでした。
精神の食料であり、人間は物語を補給しないと生きていけないんだ…と。

この悩みの時期に、自分の創作の動機を洗い直してみたわけです。

そうしたら、「つまるところ自分は遺言を描いてるんだ」という結論にたどりつきました。
毎月の連載は、「今月の俺の遺言はこれだっ!!」とか叫んで描いてます。

ゆきとクロニクルに、幼少期の僕の絵画衝動に死への恐怖が密接につながっていることを書きましたが、
やってることが複雑になって飯の種にしたり内容が高度になったりしても、結局同じなんですね。

だから、漫画家や作家を目指してる若い人たちで、「書きたいテーマが思いつかない」とか悩んでいる方達に軽くアドバイス。
まず1ヶ月後に自分が死ぬと仮定して、それまでにやりたいこと、不特定多数の人に言っておきたいことを好きなだけ書き出してみるといいと思いますよ。
その中に作品のテーマにつながるものがない人は、作家には向いてないのであきらめた方がいいですね。

2007年03月28日 
前回の書きこみに補足。

前回の終りに
> だから、漫画家や作家を目指してる若い人たちで、「書きたいテーマが思い
> つかない」とか悩んでいる方達に軽くアドバイス。
> まず1ヶ月後に自分が死ぬと仮定して、それまでにやりたいこと、不特定多数
> の人に言っておきたいことを好きなだけ書き出してみるといいと思いますよ。
と書きました。

実は、これをやってみて、言っておきたいことを言葉(文字)で書き切れてしまった人よりも、
「俺の思いは言葉では書き切れねぇっ!!」と煩悶する人のほうが作家に向いています。
言葉で割り切れないものは物語をもって伝えるしかない、という意味のことをユングも言ってますからね。

2007年08月25日 Q:ザレムのノヴアはいつ復活したのですか?


> うるふさん
> ノヴアはいつ復活したのですか?

ちょっとだけヒント。
・ノヴァの再生繭は、いつも決まった場所に出来るわけではないという事
あとは自分で推理してみてください。

2007年09月15日 Q:ゆきと先生は高校時代、漫画以外の生活はどんな感じだったのでしょうか?


> るるるさん
> 私は漫画家を目指して修行中の高校生です。
> ゆきと先生は高校時代、漫画以外の生活はどんな感じだったのでしょうか?

はじめまして。(^_^)
僕は…勉強はしなかったな~。(^-^;)
マンガを描くにあたって生きている知識も、学校で習った事よりもそれ以外の読書から得たものがほとんどですね。
ただ、僕も環境が許してくれるものなら大学に行きたかった…。
自分よりも才能のある連中と切磋琢磨したかったな~。

るるるさんも、親御さんが大学に行かせてくれるような経済的余裕があるのなら大学に行った方がいいです。
もしそれだけの経済的余裕がなくて、高校を出てすぐに働かなくてはならなくても、親御さんや社会を恨んだりせず、むしろ逆境を楽しむぐらいの精神的強さを持って生きてください。
「若いうちは苦労は買ってでもしろ」と僕も親から言われ続けて育ちましたし。
マイナスをプラスに、ネガティブをポジティブに、逆境を益境に、短所を長所に、転んだらドブの中からダイヤモンドをつかみ取って立ち上がる、そうしたしぶとさと発想の柔軟な転換が出来る人を目指してください。

最後に、文学と映画の古典的名作は若いうちにたくさん見ておいた方がいいです。
僕などは「もっと見ておくんだった…」と後悔しております。

2007年09月15日 Q:ゆきと先生、ツトムさんは過去の特撮ヒーローでどれが好きですか?


> タンニさん
>ゆきと先生、ツトムさんは過去の特撮ヒーローでどれが好きですか?

2000年以降の特撮ヒーローものでは…
1位 マジレンジャー
2位 仮面ライダーアギト
3位 デカレンジャー
4位 仮面ライダー龍騎
5位 GARO

90年代の特撮ヒーローものでは…
1位 ダイレンジャー
2位 ソルブレイン
3位 ウィンスペクター
4位 ウルトラマンティガ
注:見てない番組多し。

80年代の特撮ヒーローものでは…
1位 バイオマン
2位 サイバーコップ
3位 宇宙刑事ギャバン
4位 ジライヤ
注:見てない番組多し。

70年代の特撮ヒーローものではもはや順位付けできないんだけど…
・仮面ライダーシリーズは2号まで、V3以降は好きじゃなかった(例外的にアマゾンは好きだった)
・ウルトラマンシリーズは帰ってきたウルトラマンまで、A以降は正視に耐えなかった
・キカイダー大好き
基本的にマイナーな作品が好きだった。BBSに上がってない作品の中では「鉄人タイガーセブン」が好きだったな~。
「か~ぜ~よ吹け吹け~ ひ~かり~よは~し~れ~ ち~ちの~かた~みの~ ペ~ンダ~ント~」
超名曲中の名曲。
特撮ヒーローものの主題歌は古いのから新しいものまでほとんどすべて仕事場のipodに入れて聞いてますよ。

2007年09月15日 Q:事故事件などが先生に与えた影響はありますか?


> 南さん
> ゆきと先生にちょっとしたインタビュゥでも(返答くるかな~~)
> よく、ゆきと帳のほうには作風に影響を与えた作品、SFの本や特撮の話題があ
> りますが、事故事件などが先生に与えた影響ってありますか?
> そんな、先生に大きな影響を与えた事件事故などがあればお聞きしたいです。
> できれば「ゆきと10大ニュース」とかで(笑)


「ゆきと10大ニュース」(^-^;)
10コも事件をあげるのは難しいですね~。
社会的な事件が僕の作品に影響を与えるという事はあまりないんですが、強く印象に残った事件・事故をあげてみます。

・911テロ (2001年)
最近ではやはりこれですね。この時は仕事中だったのでライブ映像は見ていないんですが、旅客機が突っ込んでツインタワーの崩れる映像は本当に衝撃的だった。「戦争になるな」瞬間的に口走った。
世の中が銃夢のような暗黒の世界に変わっていく予兆のような気がしました。まったくやりきれないっすね。

・地下鉄サリン事件 (1995年)
旧銃夢の最終回近くを独りで描いていて、ふと、今日は俺の誕生日だな~と思ってふだんつけないTVを朝つけたら、見覚えある駅の前に人がごろごろ横たわっている映像がライブで飛びこんできた。
ナレーションも何もなくて、最初はなにが起きてるのかわからなかった。
後にサリンを撒いた毒ガステロだとわかった時は、自分もよく使う路線だけに怒り心頭に発しました。

・その後のオウム真理教騒動 (1995年~)
こいつらには実害を被った。後にPS版「銃夢/火星の記憶」を製作した時に、ザレムのシナリオに出てくる「イニシエーション」という言葉を使うなとSCEだかCESAだかに言われた。
「イニシエーションはオウムの発明じゃねぇ!!」と主張して通したが、実に迷惑な話。
本当にバカなのはこんなクレームをつけてくるSCEだかCESAだかの方だけど。

・阪神大震災 (1995年)
このころ独りで仕事していて、TVは見ないしまだインターネットもないしで、ニュースは新聞(朝刊のみ)に頼り切っていた。
仕事明けかなにかで三日ほど新聞を見ていなかった。久しぶりに新聞受けの新聞を出してきて見たら、一面に燃える町の写真、「死者五千人」…。一瞬外国の災害かと思った。
犠牲になった方、生き残った方々の体験が報道されて、「明日は我が身」と涙した。
なにが怖いって、これほどの大災害があったのに三日も気付かずに惰眠をむさぼっていた自分が怖い。大地震が来たら死ぬなこりゃ…。

・ルワンダでのフツ族によるツチ族の大量虐殺 (1994年)
これがちゃんとしたニュースになったのはだいぶ後になってからだが、前年(93年)暮れの旧銃夢「馬借戦記」の仕事期間中、アフリカ人がむごたらしく殺されている夢を見ていて、ずっと気になっていた。
虐殺のニュースを聞いた時は夢が的中したように思えて、吐きそうになった。

・酒鬼薔薇事件 (1997年)
犯人が逮捕される前、僕は「僕と同じ年ぐらいのクズ野郎のしわざ」(当時僕は30歳)と予想したのだが、完全に外れた。
「今の子は早熟なんだな~」と(不謹慎だが)感心した。

・宮﨑勤幼女連続殺人事件 (1988~89年)
僕が若いころ(21~22歳)、もっともホットだった事件。ちょうど同人活動をしていたころだったので、人ごとではない感があった。
同人でつきあいのあった野郎の部屋が後に宮崎勤の部屋とそっくりだとわかった時はマジびびった。

・スペースシャトル・チャレンジャー事故 (1986年)
この事故はたまたまライブ中継を見ていた。
当時新聞専売所に住み込みで働いていて、集金のためかなにかで遅くなって深夜1~2時ごろに食堂のTVをたまたま見ていた。
僕はスペースシャトルの打ち上げのライブというのは見た事がなかったので、興味深く見ていた。
打ち上がってゆくシャトルの光がぽあーっと三つに別れたところで、突然なんのナレーションもなく中継が終わってしまった。
事故だとは思わなくて、ただ変な番組の終わり方だな~と思っていた。
その後、朝五時に専売所に届くはずの朝刊が配達時刻になっても来ない。ものすごくいやな予感がする…。
かなり遅れて、チャレンジャー事故を報じた朝刊が届いた。
子供時代の、宇宙へのあどけない夢を引きずっていた僕は、心の中で泣きながらこの朝刊を配った。
僕の少年期の終りを象徴する事件だった。

・日航機墜落事故 (1985年)
当時新聞専売所に住み込みで働いていた新聞奨学生の18歳だった。
朝の4時には印刷所から専売所に届くはずの朝刊が、5時過ぎになっても来ない。
なにか大事故があって、印刷が遅れてるらしい…と漏れ伝わってくる。
あのときのジリジリしながら待つ、いや~な感じは言葉で説明するのは難しい。


こんなところかな。
バブル崩壊はせいせいしたクチっすね、僕は。
バブルの風潮はだいっ嫌いで、それで当時のトレンドの真逆を行く「銃夢」を描いたくらいですから。

連合赤軍事件はぜんぜん覚えていないんですよ。
あさま山荘事件は1972年、僕5歳ですが、このころのアニメ・特撮ヒーローものは初回放送をよく覚えてるのに、連合赤軍関係はぜんぜん覚えがない。
ゆきとクロニクル年表→(リンク)
子供の教育上の配慮からTVで見せなかった…なんてことはウチの親の場合あり得ない。
(^-^;)

ただ、当時のマンガ「アストロ球団」にしろ「ドーベルマン刑事」にしろ、今読むと当時の世相を色濃く反映していて、そういった意味での間接的な影響はあったに違いないですけど。
同じように当時の学生闘争にトラウマを持つアニメ監督の富野由悠季や押井守が作ったアニメにいろいろ影響を受けて(反面教師的なものもありますけど)育っているので、直接的な記憶がないとは言ってもまったく影響がないわけではないですね~。

2007年09月20日 Q:エルフ・ツヴェルフのウサギスーツ、どうやって着てるんでしょうか?


> yogiさん
> エルフ・ツヴェルフのウサギスーツ、どうやって
> 着てるんでしょうか?背中とか胸にファスナーでも
> あるのかな…?

背中にファスナーがあるんじゃないですかね~。(^-^;)
絵では邪魔なディティールは省略して描いてしまうので、そのへんは自由に想像してください。

2007年09月20日 Q:マンガ家を目指す人が文学や映画の名作を見る必要がありますか?


> るるるさん
> ここで疑問なのですが、なぜ漫画ではなくて、文学や映画の名作なんでしょうか?

マンガの名作は直接描き方の参考になります。
マンガ家を目指すのだから、マンガの名作をひと通り読んでおくのは「基本」です。
マンガ家のアシスタントに行ったり編集者と話をした時に「あしたのジョーを読んでません」とか「忍者武芸帳を読んでません」というのでは話になりません。
あたりまえすぎることなので、前回のコメントではわざわざ書かなかっただけです。
(^_^)

文学や映画の名作を見ておきなさい、というのはマンガの名作をフォローした上での話です。
ハイティーンから20歳ぐらいまでのころは心が柔らかく大きく発達する時期なので、この時期にどれだけ精神の滋養分を摂取したかがその後の伸びしろをほぼ決めます。
20歳を越えた頃から人間は固まってしまうので、自分の考えや感性と違う作品と出会って感動はしても、人間そのものが変わってしまうような体験はあまりしなくなります。

知識は歳とってからでもいくらでも学習できるので、若いうちは多彩な作品に接して「感動力」を鍛えておくべきです。
若い時の感動というのは、その感動ひとつひとつが新しい自分の発見となります。
思いもがけない事象に感動する自分というものに直面して、自分の未知の側面というものを発見していく。
そうしてだんだんと自分の心の輪郭というものがわかっていく。
自分の欲望と希望の所在を把握した人間だけが、他人に感動を与える作品を描ける。

なぜ自分の体験やマンガ以外の文学や映画なのか…という疑問には、僕はこう考えます。
まず、自分自身が体験した実体験というのは、一番「リアル」なわけですから一番重要です。
しかしこの平和な日本。多少貧乏したりしたってたいしてすごい体験ができるわけがありません。
(波乱万丈な人生を歩む人も稀にいるでしょうが、そんな人はマンガ家になるのに人に相談したりしないでしょう。)
マンガも所詮同じ日本人が最近描いたものです。同じ言語、同じ習慣、同じ常識の範囲に縛られている。
そこで国も時代も違う人が魂をこめて書いたり撮ったりしたものを読んだり見たりした時に感動すれば、それは普遍的なものだと思うわけです。

普遍的な感動・テーマというものは、創作のための「原初的燃料」となります。
それは誰のものでもない、あなただけの「武器」となりえるものです。

ただ、文学研究者や映画評論家になろうというわけではないので、古今東西のすべての古典名作をすべて読破・観賞する、というのは物理的にも経済的にも無理です。
(BBSでもみんな思い思いに作品を挙げてますが…(^-^;))
結果的にあなたに縁のあった作品が両手で数え上げられるぐらいあれば十分です。

すでに読んでるかもしれませんが、僕の体験記「ゆきとクロニクル」の
80年代後半あたりも多少は参考になるかも。(リンク)


最後にBBSであまり挙げられていない名作文学のオススメをいくつか…

・ドストエフスキーの諸作品
(実をいうと僕が読んでいるのは「罪と罰」だけ。翻訳が古くて最初は難儀したが、50ページを越える頃から一挙に面白くなった。ただ読んだのが旧銃夢連載終了後なので、人生に影響を与えるほどではなかった。もっと早く読んでおくべきと大後悔。今は新訳が出ているそうです。)

・ゲーテ諸作品
(僕が読んでいるのは「ファウスト」第1部・第2部のみ。20歳ごろ読んで大きな影響があった。)

・ダンテの「神曲」
(僕が読んだのは訳が悪くて、ぜんぜん面白くなかった…)

・カフカの諸作品
(僕は読んだのが遅すぎた。)

・メルヴィルの「白鯨」
(17で読んで大きな影響があった。)

・ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」
(23歳ごろ読んだが、もう少し早く会っておきたかった。)

・Oヘンリの短編集
(短編としてすごく分かりやすい。)

・トランボの「ジョニーは戦場に行った」
(20歳ごろ大きな影響を受けた。銃夢の原点。)

・コリン・ウィルソンの「アウトサイダー」
(小説でもなく戦後の作品だが、孤独と戦う若い人にこそ読んで欲しい本。)

僕は国内文学を軽視しているので時代小説以外ほとんど読んでいないのだけど(ひんしゅくを買いそうだなー)、一つだけ挙げるとするならこれ。
・夢野久作「ドグラ・マグラ」
(人によって好き嫌いあるかも。とても昭和10年の作品とは思えないほど現代的な感性の小説。)

2007年12月24日 Q:銃夢外伝に収録の各作品に加筆修正はありますか?


> 南さん
> 銃夢外伝買いました!
> ・今回の収録の各作品に加筆修正はあったんでしょうか?
> ・各外伝が発表された時系列はどうなっているんでしょうか?

本編に加筆修正はないです。
発表の時系列は「故郷」「聖夜曲」「音速の指」「馬借音頭」です。
巻末の解説および奥付を参照してください。

2007年12月24日 Q:先生とkawamura氏はどのような関係ですか?


> 南さん
> 銃夢外伝買いました!
> ・あとがきで故郷のストーリーを提案されたのが「川村君」となっています
>  が、BBSのkawamura氏と同一人物ですか?
> また、先生とkawamura氏(=川村君)とはどのような関係なんでしょうか?

「川村君」とkawamuraくんは同一人物です。
彼と僕とはただならぬ関係…ではなく、
旧銃夢連載のころ彼がアシスタントでした。これも巻末解説を参照してください。

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