絵コンテ「RAINMAKER」(2)
〜1989年
ど〜も前後の記憶があやふやで困るが、「RAINMAKER」の小学館時代のバージョンが二種類だけだったはずがないのだが…。3〜4種類あったような気がする。
とにかく連載の芽を摘まれてしまったかに見えた「RAINMAKER」だったが、89年後半になって意外なところからアプローチがかかり、僕は今しばらくこの作品の企画とつきあうことになる。
後から伝え聞いた話によると、「RAINMAKER」を死蔵しておくのは惜しいと考えた小学館のO氏が、つきあいのある作家Y先生(僕は面識はない)に絵コンテのコピーを渡し、Y先生もそれを気に入って、つきあいのある集英社のトミタさんにそれを見せたらしい。
そしてトミタさんも「RAINMAKER」にほれこみ、いきなり僕に電話をかけてきて会うことになった。
(この辺のことはバレるとO氏の立場が社内で悪くなるとかで口止めされていたが、あれから15年も経ったのでもう時効だろう。)
当時トミタさんは「月刊ベアーズクラブ」(現在は廃刊)という月刊誌の副編集長で、この時が僕との初対面となる。
集英社というと週間少年ジャンプのイメージが強すぎて、好きで愛読する作品はたくさんあるが、自分が描きたいと思う出版社ではなかった。しかし「ベアーズクラブ」は集英社としてはかなり毛色の変わった雑誌で、僕みたいな作風の作家でもやれそうな雰囲気があった。
トミタさんはひと通り「RAINMAKER」のほれこんだシーンの話をした後、いきなり「連載第1回目に100ページあげるから、ネーム描いてきて!」と言うのであった。
僕は正直言って、半年前に死ぬほどバージョン違いのものを描いた揚げ句ボツになった作品の話など聞くのもいやだったが、100ページというのは破格な話である。
なんでも月刊誌は週刊誌と違ってページに融通がきくらしい。
しかも連載だ。
僕は再び燃えた。
半月後、またまた設定を変えた連載版「RAINMAKER」第1話100ページの絵コンテをトミタさんのところに持ちこんだ。バージョンはもういくつ目なのかわからないので、ベアーズクラブバージョン(Ver:BC)とする。
これを読んだトミタさんの顔は渋かった。トミタさんが気に入っていた話とは別の方向に行ってしまっているらしい。
「RAINMAKER」(Ver:BC)のあらすじはこうだ…。
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ボックス・ゴドーは恋人が通り魔「ワーウルフ」に襲われたとの知らせを聞き、病院に駆けつける。
恋人は変わり果てた姿になっていたが、脳死してはいなかった。サイボーグ化によって命は助かる。
だがボックスは恋人を殺害、錯乱したままハイウェイを車で暴走する。
殺人罪で指名手配されたボックスを追うのは機動警察の女サイボーグ警官(ここで初めてガリィというキャラクターが登場する)。
狙撃され車は大破。廃人同然となったボックスは、刑務所でビゴットに特殊エージェント「RAINMAKER」にスカウトされる(このシーンのイメージが後に「銃夢」のTHUNDスカウトのシーンの原形となっている)。
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泥沼である。
主人公が恋人のとどめを自分で刺すという形にしたせいでカルマがさらに深まって収拾がつかなくなる寸前である。
僕は主人公が男性だと自分と同一化して悩んでまい、客観的に物語をコントロールすることが難しくなるということをここで痛感した。
トミタさんは描き直してくるように言ったが、合計300ページ以上も絵コンテを描いて一枚も完成原稿にならないのに飽き飽きしていた僕は、この後「RAINMAKER」を描くことは二度となかった。