つけペン初体験〜「赤塚不二夫のマンガ入門」
〜1978年ごろ
千葉県柏市に住んでいたころ、小遣いが貧弱ゆえ漫画雑誌を買うことができなかった。
そこで、町内の廃品回収に出される漫画雑誌などをいただいてきて読むのが木城家では当然の習慣だった。
そうしてもらってきた雑誌の中に、なぜか「赤塚不二夫のマンガ入門」が二冊もあった。
僕はこの本でプロの漫画家が「つけペン」というもので絵を描いていることを知った。
しかしそんなもの見たことがない。一体どこで売っているのか?
僕は通っている小学校の前にある小さな文房具店「ソウベエさん」に行き、店のおばさんに勇気をふりしぼって言った。
「ペン先とペン軸ください!」
店のおばさんは、おやまあ、これが売れるなんて久しぶりだねえ、といった感じで、ケースの奥にあった品を出してきた。売ってなかったらどうしよう、と不安だった僕はホッとし、同時にこんな小さな店にもちゃんと売っているという事実に驚いた。
カブラペン一本とプラスチック製のペン軸。ペン軸は先端を外して裏返すとガラスペンになるしかけが内蔵されていた。
たぶん小学6年生ごろのことだと思う。
その後パイロットのインクを母に買ってきてもらい、イトーヨーカドーで一冊100円(もっと安かったかも)で売っている「じゆうちょう」に意気ごんで描き始めた。
「ガガガっ!!!」
…紙が破れた。
この「じゆうちょう」、紙の色こそ白かったものの、消しゴムをかけるとバリバリ表面が剥がれてきてしまうようなワラ半紙以下の紙質だったのだから無理もない。そのうえ手加減を知らない小学生の筆圧だ。
気を取り直し、定規で線を引く。
定規は学校で使っている竹定規である。
定規を離すと毛細管現象で裏側にべったりインクが染み渡っていた…。
ベタ塗りの宇宙を描くことに憧れていた僕は、図工で使う筆をパイロットのインクに突っこみ、塗りまくる。
薄すぎてぜんぜんベタにならない…。
さらに学校で使っている水彩絵の具の白で星を打つ。もちろんスパッタリング技法など知らないので一個ずつ手打ちだ。
インクの黒が絵の具に混ざってしまう…。(この現象を「泣く」という。)
「使え〜ん!!」と正直思った。
その他、「赤塚不二夫のマンガ入門」によると網点などのパターンは「スクリーントーン」というものを使うと書いてあったが、その現物が載ってないためどんなものなのか見当がつかず、長い間謎だった。
また「スクリーントーンを多用すると画面が冷たくなるので、控えめにした方がよい」と書かれていて、これが刷り込まれてしまったせいか、プロになってもしばらくはスクリーントーンの使いすぎに拒否感があった。
ずっと後になって手塚治虫や石森章太郎が著したマンガ入門書を読んだが、それらに比べると「赤塚不二夫のマンガ入門」はかなり簡便な内容で肝心なことが書いておらず、「てきとうに作った感」が漂う。
だがそれがなぜ二冊もあったのか謎だ…。