トップページ of 茶房・風雲庵

特別編:さらばヴィクトリー

_title.jpg

2017年4月29日 木城ツトム

これは、私の現在の愛車ヴィクトリー・ハイボールに乗るのをやめるという話ではありません。今後も乗り続けます!またこの記事は、筆者バイク好き中年の個人的な意見・妄想であり、なんら裏付けがある話ではありません。予めご了承ください。m(_ _)m

“光あるところに影がある”  ここにまた、ひとつのバイクメーカーが終焉を迎え、歴史の表舞台から消えることとなった。その名はヴィクトリー・モーターサイクル。

ヴィクトリー、まさかの「終了宣言」


今年1月、バイク業界の片隅でひっそりと、しかしクルーザーファンにとっては衝撃的なニュースが飛び込んできた。それは、アメリカ第2位のクルーザー専門ブランド、ヴィクトリーの『終了宣言』であった(正確には「ブランドを徐々に縮小」なので、今すぐ終わってしまうわけではない)。くわしくはわからないが、どうやらここ5年ほど経営は赤字続きだったと言われている。さらに2016年排ガス規制の「ユーロ4」、2020年排ガス規制の「ユーロ5」に対応するのが非常に厳しかったらしい。ちなみに、この排ガス規制のため国内バイクメーカーのモデルも大量に生産終了となっている。

v002.jpgヴィクトリー・ハイボールヴィクトリー終了のニュースはバイク系ネットメディアが伝えていたものの、ヴィクトリーユーザーである私が知ったのは4月に入ってからだった。今年3月に行われた『東京モーターサイクルショー2017』にはインディアンと並んでヴィクトリーも出展していた(両社とも親会社が米ポラリス、日本の代理店は(株)ホワイトハウス)のだが、「ヴィクトリーは今年が最後」という話を聞き及んで「んん?インディアンとヴィクトリーは同じ系列なのに、ヴィクトリーだけ今年が最後??」といぶかしく思っていた。まさかまさか、ヴィクトリーの「終了宣言」が出ていようとは……。

ヴィクトリーとは?


v004.jpgヴィクトリー・ハイボールスノーモービル、四輪バギーなどの車両製造会社ポラリス・インダストリーズのバイク部門として1998年に設立。以後、18年に渡って約60車種を発表。大型の空冷Vツインエンジンを搭載した、ハイパフォーマンスな「モダンアメリカンクルーザー」を展開している。ちなみにポラリスは2011年に「インディアン」の商標を獲得し、インディアン・モーターサイクルとして製造・販売も行っている。

思えば、私がバイクメーカーのヴィクトリーを知ったのは、2013年3月12日にNHKで放送された『クローズアップ現代』の「“3Dプリンター革命” 〜変わるものづくり〜」の回。パーツのモックアップを3Dプリンターで素早く作り上げ、製品化までの期間を短くしようという、先進的なメーカーとして紹介されていた。

ハーレーとの違いは?


言わずと知れたアメリカモーターサイクル界の巨人、ハーレー・ダヴィッドソン。空冷Vツインのクルーザーと言えば真っ先に思い浮かぶのはハーレーだが、ヴィクトリーとの違いはどこにあるのか、違いを比較してみよう。



ハーレー・ダヴィッドソン ヴィクトリー
●歴史 110年以上(1903年創業) 18年(1998年創業)
●アメリカのシェア※1 35%(2014) 5%(2014・インディアン含む)
●知名度 誰でも知ってる 全然知られていない
●ディーラー数 非常に多い 超少ない
●純正パーツ ずば抜けて多い  そこそこ
●他社パーツ ずば抜けて多い  少ない
●エンジン 空冷VツインOHV
ツインカム103(1690cc)
空・油冷VツインSOHC
フリーダム106(1731cc)

こうして比較してみると、シェアの少なさによる物珍しさ以外、ヴィクトリーを選ぶ理由が見当たらないが(苦笑)、ヴィクトリーの優れた点は数値以外のところにある。ノーマルの状態でカスタムモデル並みの流麗なデザイン、ハーレーよりもパワー・トルクが高く鋭い走り(ブレーキも良く効く)、整備に使う工具は日本車と同じミリ工具(ハーレーの場合、インチ工具を一通りそろえなければならない)など、本場アメリカ生まれのクルーザーとしては優れた資質を持っていた。

f004.jpgダイナ・ファットボブまた個人的に特筆すべき点として(愛車ヴィクトリー・ハイボールの場合)、日本人体型の私の短足でも理想的なステップ位置、薄く見えるシートだが実は厚めで疲労感が少なく座り心地はバツグン、常識的なプッシュキャンセル式ウィンカースイッチ、パーツの隅々まで行き届いた美麗な仕上げなど、前の愛車ハーレー・ダイナファットボブと比べても優れたポイントが多かったのである。



ヴィクトリー終焉の理由


しかしこれだけ完成度が高いクルーザーモデルを製造していながら、なぜヴィクトリーは終了してしまうのか?海外でも日本でも、一番の原因は「知名度が足りなかった」だけかも知れない。しかし、ここでもう少し他の原因も考察してみる。

●ハーレーに真正面から勝負しすぎた


ヴィクトリーが製造しているバイクは、空冷Vツインの大型クルーザー。デザイン的な違いはあるものの、ジャンル的に完全にハーレーとかぶっている。価格的にもターゲットユーザーもほぼ同じで、完全にハーレーにケンカを売った形である。アメリカNo.1バイクメーカー、ハーレー・ダヴィッドソンに真正面から殴り合いを挑んだ度胸は賞賛に値するが、商売的にはあまりにも無謀だったと言えよう。

●ドラッガー専門メーカーだったら


そこで、同じ「クルーザー」ジャンルでもヤマハ・VMAXカワサキ・エリミネータードゥカティ・ディアベルのようなパワー系クルーザー、いわゆる「ドラッガー(ドラッグレーサー)」モデルを中心に展開していれば、ハーレーとはユーザー層に違いが出て、また話も違っていたのではないか。

h001.jpg左:ナイトロッド 右:ブレイクアウトとは言うものの、実はハーレーも「Vロッド」という水冷エンジンのドラッガーモデルを2002年から製造している。が、「ハーレーらしくない」との声もあり、今年2017年に生産終了となってしまった。またヴィクトリーにも「ハマー」や「ジャッジ」というパワー系モデルがある。各社ともトラディショナルなクルーザーとは一線を画す「新ジャンル」を確立させようとがんばったフシはあるのだが、いまひとつ定着していないのが現状である。

●小型軽量・安価な入門モデルがあったら


h002.jpgスポーツスター・アイアン883ハーレーには50年以上も前から「スポーツスター」という、車格・排気量が小さく、また価格も安いモデルがある。価格が200万円から350万円もするハーレーを買うのに躊躇する人も、120~160万円のスポーツスターなら購入しやすい。また2014年から発売された、ほぼ100万円の「ストリート750」というモデルもある。こういった入門モデルから上位機種にステップアップするというシステムは、小柄な人や女性でも入りやすくハーレーの強みになっている。このような入門モデルがヴィクトリーにもあったら、もう少しユーザーを増やせていたことだろう。

とは言えエンジンを新設計してモデルを増やすのはリスクも大きいので、かつてハーレーがイタリアのアエルマッキを買収したように、小型モデルを製造するメーカーと提携または買収するのも手だと思う。インドやアジア系メーカーを傘下にすれば、アジア圏で小型バイクを販売することも可能だったろう。アメリカのメーカーが中国で生産しているヘイスト250」という例もあるし、小型クルーザーモデルは潜在的な需要も多いのではなかろうか。

……と言いつつ実は、ヴィクトリーも今年2017年から「オクテイン」という、水冷1200ccの小型スポーツモデルが登場したのだが、残念ながら時すでに遅かった。

●客がインディアンに流れた


i001.jpgインデアン・チーフヴィンテージすでに述べたが、ヴィクトリーの親会社ポラリス・インダストリーズは2011年に「インディアン」の商標を獲得し、以来ハーレーをしのぐ高価格なクルーザーモデルを製造・販売している。そのためヴィクトリーとインディアンは、同じディーラーで取り扱われている。すると「ハーレーとは違ったクルーザー」を求めるユーザーが、「ヴィクトリーに300万円出すのなら、もう少し出して(ハーレーより高級な)インディアンにしよう」と考えても不思議ではない。ブランドは違うが、いわば同じメーカー内で「食い合い」が起こってしまったのではないか。と言うか、一方的にヴィクトリーがインディアンに食われたのかもしれない。


親会社のポラリスとしても、似たようなバイクブランドをふたつも抱えていることの「矛盾」と「非合理性」に気づいたのだろう。致命的な不具合が起きたり訴訟問題になったりしたわけではないのに、18年も続けたブランドの「終了宣言」を出すというのはただ事ではない。インディアンの栄光の影に飲み込まれたヴィクトリー。バイク史に、一瞬の流れ星となってはかなく消えていった。これからという時だっただけに、残念でならない。合掌。

header-logo.pngとは言え、今すぐ終わるわけじゃないぞヴィクトリー!開発・販売は徐々に縮小されていくが、パーツ類やアフターサービス、メーカー保証は今後10年間続けられる。今後希少価値がますます高まっていくヴィクトリー、乗るなら今のうちだ!!

Victory Motorcycles JapanLinkIcon