本殿の階段を上がると、左手の天井に掲げられている大きな錦絵が目を引く。なんでも唐の皇帝玄宗(685〜762)が妻・楊貴妃の死を弔うため彫った観音菩薩像が、なんとこの寺の本尊であるという。そのため、ここの本尊は別名「楊貴妃観音」と呼ばれるらしい。また本殿のガラス越しに見ることができる宝物の中には、「楊貴妃の鏡」というものが展示されている。
江戸末期の錦絵『観音霊験記』によるとその昔、尾州(尾張、今の愛知県)の熱田神宮に謎の美女が現れ、持っていた鏡を差し出し「この鏡を秩父郡の深谷に奉納せよ。さすれば如意輪観音の霊験あり」と言って去った。どうやらその美女が楊貴妃らしいのだが、この話や菩薩像の由来をそのまま鵜呑みにはしがたい。ただ山口県の方にはズバリ「楊貴妃の墓」があったりするので、唐時代の遺物がこの秩父にまで渡ってきた可能性もあるのかも知れない。
また鏡とは別に、「龍の骨」と「天狗の爪」というのが寺の宝物として展示されている。この地に1000年も棲んでいた悪龍が改心して観音様を信仰し、鎌倉の道隠禅師に観音堂の建立を懇願した。観音堂が無事建てられると、龍は昇天して骨を残したと言う。小振りながら迫力があるアゴの骨だが、これはサメのアゴだろう。「天狗の爪」も巨大なサメの歯に間違いない。秩父と言えば「秩父セメント」が有名だが、ここから産出されるセメントの原料・石灰岩はもともとサンゴが堆積したもの。つまり大昔、秩父は海の底だったのだ。
さてこの時点で午後をまわってしまったので、急いで次の目的地へと向かう。法雲寺のすぐ近くにある、その名も「バイク弁当」大滝食堂である。渓谷沿いに走ること数分、道の駅「大滝温泉」の向かいにある、一見普通の食堂が目的地だ。店内もごくごく普通の食堂だが、壁にはバイク関連のポスターがちらほら。この日は平日でお昼も過ぎていたことから、客は他に1組だけだった。
入り口にある食券機で「ボアアップ」(ごはん大盛り)の食券を買って店員の女の子に渡すと、あっという間にテーブルに運ばれてきた。バイクのタンクを模した、赤い容器に入った弁当だ。食べ終わったらタンク容器を持ち帰ることもできる(テーブルの横に袋が用意されている)。中身はごはんの上に乗った大きな豚肉が2枚。甘いタレにつけて焼いた肉のように感じたが、実は豚肉の唐揚げだったようだ。そして大きいインゲンが2本と漬け物がトッピングされている。それと店内で食べると、みそ汁がサービスでついてくる。
味の方はまあ、そこそこと言ったところ。店内で食べられるとは言え、あくまでも「弁当」だ。食べ終わって帰り際、店長さんが出てきて「あ〜これなんのバイクだろうと思ったら、ヴィクトリーだったんですね〜」としばしバイク話で盛り上がった。
すっかり腹も満たされたので、続いては「バイク弁当」のすぐ向かいにある道の駅「大滝温泉」で温泉に入る。ここはかけ流しの天然温泉で、大きな内風呂と開け放しの岩風呂とサウナがある日帰り温泉施設。大人ひとり700円で、施設はきれいで真新しい。この日はやはり客も少なく、ゆっくりと入ることができた。お湯は無色透明でちょっとしょっぱい。入ると肌がヌルヌルスベスベしてくる。すいていたのでサウナにも入ったが、慣れていないので10分ほどでギブアップ。
温泉を出て、同じ敷地内の特産品販売店でお土産を購入。午後3時をまわってしまったので、日が暮れる前に帰ることに。
帰路は圏央道を使わず、関越道→外環道→常磐道といういつものルートを通って帰宅した。圏央道を通って秩父まで行った距離は約167km、秩父から関越道で自宅まで帰ったときの距離は約140kmだったので、千葉県から圏央道を使うとかなり大回りすることになる。今回の総走行距離は約307km、入れたガソリンは15.3リットルで、燃費はほぼリッター20km。風が強かったのが影響したのか、燃費はあまり延びず。しかし久しぶりのツーリングはやはり楽しかった。いずれは静岡方面まで足を伸ばしてみたい。