AK−1グランプリ of 茶房・風雲庵

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安全カミソリ世界選手権
AK-1(Anzen Kamisori -1) グランプリ
〜 2004年12月26日 〜
TEXT by ツトム@万歳塾館長



●イントロダクション●


──神は、アダムに向かって言われました。
「あなたが裸であるのを、誰が教えたのですか。食べるなと言っておいたあの木から、実を取って食べたのですか」
──アダムは答えました。
「私と一緒にしてくださったあの女が、木から取ってきてくれたので食べたのです」
──神は言われました。
「あなたは女の言うことを聞いて、食べるなと言っておいた木の実を食べたので、私はこの地に呪いをかけました。あなたは生涯、ヒゲに苦しむでしょう
 
『旧約聖書』創世記・第3章から抜粋 …したものを少し改造


いかに完璧に、かつ安全にヒゲがそれるか……それは太古の昔より、男子に課せられた試練のひとつであった。その試練に敢然と立ち向かい、人類の英知を積み重ねた結果、20世紀初頭に「安全カミソリ」が誕生する。そしてさらに時代が進んで21世紀の今、人類が誇る科学技術の粋を駆使したハイテク安全カミソリたちによる、壮絶な戦いの幕が切って落とされたのである!


●安全カミソリの歴史●


有史以前からすでに人類は、石器による体毛除去をおこなっていたと言われている。特に男子の場合、戦闘においてヒゲを目印に攻撃されたり、あるいはヒゲをつかまれたりする危険性からヒゲソリが重要視されたという説もある。その後、古代エジプトにて西洋カミソリの原型となるものが出現。ローマ時代には折りたたみ式のカミソリが登場した。

それから19世紀まで西洋カミソリの黄金時代が続いたが、20世紀に突入したばかりの1901年、アメリカ人キング・キャンプ・ジレット(1855-1931)が18年の歳月をかけた替え刃式T字安全カミソリを開発。世界初の替え刃式安全カミソリはまるで拷問器具のようだが、ここに誰でも安全かつ簡単にヒゲがそれる時代が到来した。

1921年にはシックが替え刃連発式(インジェクター)を発表、1971年にはジレットから世界初の2枚刃式が発売され、以後1977年に首振りヘッド、1985年に水溶性スムーサー、1990年に刃のサスペンション機構、1992年にガード刃「プロテクター」、1998年に3枚刃式、2003年には4枚刃式が誕生し現在に至っている。

この驚くべきカミソリの進化の行く末をムーアの法則にならって予測してみると、あとわずか3年ほどでこうなってしまうという恐るべき結果が出ている。アンモナイトのような安全カミソリ絶滅の日も近いのかも知れない。


参考:→カミソリ倶楽部・ネットミュージアム
   →ひげそりのシック・シェービングの科学と技術
   →About Gillette・男性用シェービングガイド



●AK-1グランプリ・出場選手紹介●


さて今大会においては、プロデューサー兼レフェリーである筆者、ツトム@万歳塾館長の独断と偏見に充ち満ちたジャッジングがなされることをご理解いただいて先に進もう。この私の恐怖のヒゲ地獄に本日挑戦するのは以下の5名である。

Fシステム・MR3 13.5cm 48g 日本 所属:フェザー
「反逆のメタルローラー」
日本の大手カミソリメーカー・フェザーによる3枚刃カミソリ。
独特な幅広グリップと前後左右に動くヘッドにプロテクター、
そして必殺技「メタルローラー」で相手をひねりつぶす。
プロテクター3Dダイア 12.9cm 56g USA 所属:シック
「元祖キレてなーい」
米国陸軍大佐ジェイコブ・シックが創設したメーカー・
シックのハイテクカミソリ。2枚刃だがプロテクター装備、
3方向に動くヘッドでディフェンスに優れる技巧派。
K−4 テトラ 14.5cm 54g 日本 所属:貝印
「恐怖の時間差4枚刃」
明治41年(1908年)創業の老舗カミソリメーカーが放つ、
純国産4枚刃カミソリ。人間工学に基づいて設計された
独自形状メタルグリップで一撃KOを狙う。
クアトロ4 13.9cm 46g USA 所属:シック
「オキテ破りの世界初4枚刃」
シックが威信をかけて放つ世界初・最先端4枚刃カミソリ。
「刃数は正義」を信条とし、すべての敵を4枚刃攻撃・
クアトロアタックでたたきふせるパワーファイター。
M3パワー 14.5cm 39g USA 所属:ジレット
「カミソリバトルサイボーグ」
1901年創業、世界シェアNo.1カミソリメーカー・ジレットの
最新ハイテク「電動」カミソリ。体内に電動モーターを内蔵した
3枚刃ハイパーバトルサイボーグが世界の頂点に挑む。
※上記の文章には一部妄想が含まれています。本気にしないようご注意ください。


なお今大会は、筆者が長年愛用してきたシック・ウルトラ(首振り2枚刃、スムーサー、ワンプッシュクリーナー装備。初代ウルトラは1978年発売)性能の審査基準(基本点:50点)として用いる。
また今大会は、それぞれのカミソリを筆者が実際に数回使用してのバトルインプレッションとなるわけだが、その際のシェービングクリームは近江兄弟社・メンタームシェービングクリームを使用した。


●ラウンド-1・ホルダー(グリップ)性能対決!●


Fシステム・MR3(フェザー)
特異な幅広エルゴノミックデザインが目を引く、Fシステムのホルダー。このホルダーの特徴は、3種類のフェザー製替え刃ならどれでも使えるというマルチシステムだ(+10点)。本体は樹脂製だが安っぽさは感じない。しかしデザインはしたたり落ちるクリームのような形状で、少々ヤボったい(−3点)。中には金属製ウェイトが入っているらしく、48gという数値以上に重くしっかりしている。幅が広いので手に取ると持ちやすいが、逆ぞりするのに裏返した時、ネックの部分を指3本でつかもうとすると少し持ちにくく感じた(−2点)。
  →総合得点:55点 


プロテクター3Dダイア(シック)
こちらもなめらかな曲線の、エルゴノミック形状ホルダーの3Dダイア。上半分が金属、下半分がゴム製で、今回のカミソリの中では最重量級の56g。持った感じもズッシリと来る(+8点)。しかし裏返して指でつかむとやや持ちにくく、グリップ断面が丸っこいので刃先の方向がわかりにくく感じた(−2点)。従来の直線的なデザインのホルダーに慣れてしまっているせいだろうか?
これもエルゴノミックなので、液体がしたたり落ちるようなデザインだ。そのため写真のようなメタリックブルーカラーだと、アマゾンに生息する毒々しい虫を連想させてちょっとウツな気分に(−3点)。
  →総合得点:53点 


K−4 テトラ(貝印)
社団法人・人間生活工学研究センターが開発に協力したという、独特な形状のホルダーがウリのテトラ。高級感のあるポリッシュ仕上げの金属製で、手に持つとズシリと重い(+8点)。替え刃装着部分やグリップデザインは、カマキリを彷彿とさせる攻撃的なデザイン(+1点)だが、カラーリングが黒(ゴム)とシルバーなのでやや80年代的な古くささを感じる(−3点)。ヘッドに近い部分が重いので、普通に持って使う分には確かに使いやすい(+3点)が、細いネック部はすべりやすいかも(−2点)。
  →総合得点:58点 


クアトロ4(シック)
金属製の骨組みでラバー部分をはさみこんだ、SFロボットアニメ風デザインのクアトロ。このジャパニメーションデザインが気にならない向きであれば、今大会の中では最も洗練されたデザインと言えるだろう(+10点)。ただし替え刃カートリッジとの結合部分が樹脂製で、耐久性が不安(−2点)。持った感じは意外と素直でクセがなく、逆手に持っても安定している(+3点)。しかしラバー部が、あまりすべり止め効果を発揮していないのがちょっと気になった(−2点)。
  →総合得点:59点  現在首位!


M3パワー(ジレット)
変わってこちらは近未来アメリカンテイスト、(ゲーム機の)Xボックス風アトミックデザインが光るM3パワー。このアトミックデザインは賛否の分かれるところかも知れないが、ツボにハマった人には絶品(+10点)。ホルダー内部に単4電池とモーターを内蔵しているにもかかわらず、今大会最軽量の39g。しかしホルダーは軽ければいいわけではないので、重いホルダーに慣れた人にはちょっと物足りなく感じるかも知れない(−2点)。また替え刃カートリッジ結合部を含めたホルダー全体が樹脂製のため、耐久性には疑問が残る(−2点)。グリップの断面はほぼ円形だが、握った時にすべり止めラバー位置によって刃先の方向がわかる設計は見事(+3点)。しかし使っている最中に時々間違えて、グリップ中央のパワーボタンを押して止めてしまうことがあった(−1点)。
  →総合得点:58点 


●ラウンド-2・最先端テクノロジー対決!●


Fシステム・MR3(フェザー)
3枚刃(+1点)、上下左右に動くヘッド(+1点)、ワイヤー断面を半円形にした独自プロテクター(+2点)、そして穴のあいた金属製ローラーが肌にマッサージ効果を与える世界初・メタルローラー+10点)。
  →総合得点:69点 


プロテクター3Dダイア(シック)
「キレてなーい」のCMでおなじみ、横滑りカットを防ぐ元祖プロテクター+8点)、アモルファスダイアモンドコーティング刃(ダイヤと同レベルの硬度を実現。別にダイヤは使われていない。+1点)、上下左右に加え、奥にも動く3次元アクションヘッド(+3点)。
  →総合得点:68点 


K−4 テトラ(貝印)
3枚刃+エキストラブレードの4枚刃+8点)、刃の上下左右4箇所につけられたスムーサー(+2点)、縦でも横でも使える2ウェイホルダーケース(+4点
  →総合得点:72点 


クアトロ4(シック)
世界初4枚刃+10点)、元祖プロテクター(+8点)、アモルファスダイアモンドコーティング刃(+1点)。
  →総合得点:78点  現在首位!


M3パワー(ジレット)
3枚刃(+1点)、力強い微小波動を起こしてヒゲを立たせる、世界初の電動システム・マイクロパワー+12点・防滴加工+3点)、刃の交換時期を知らせるインジケーター付きスムーサー(+1点)。
  →総合得点:75点 


●ファイナルラウンド・ソリ味対決!●


Fシステム・MR3(フェザー)
ソリ味は軽快ながらも「ジョロリ、ジョロリ」といったねちっこい感じ。しかしメタルローラーの効果で、肌の上をスルスルとすべるのは気持ちいい。スムーサーはオマケ程度で効果のほどはわからなかった。せっかくの力が入りやすい幅広ホルダーが、上下左右に動きまわるヘッドのため活かされてない感じがする。加えて逆手持ちがしにくい+3点)。
  →最終総合得点:72点 


プロテクター3Dダイア(シック)
この3Dダイアに限らず、最近のシック製品はそっている最中にヘッドがカチャカチャいうのが気になる。2枚刃でプロテクター付き、しかも3次元アクションヘッドの効果もあるのか、ソリ味は極めて軽快。「プロテクター付きは深ゾリがきかない」と一般に言われるのもわかる気がするが、丁寧にそれば深ゾリできないわけではない。ただやはりヘッドがフニャフニャと動きすぎる感じがした。試しにワザと横すべりさせてプロテクターの効果を試してみたが、さすがCMで言うだけのことはあって本当にキレてなかった+6点)。
  →最終総合得点:74点 


K−4 テトラ(貝印)
4枚刃効果に加えて首振りヘッドのスプリングが強力で、刃を肌に当てた瞬間からビシッとヒゲを捉える感覚がある。ホルダーの重みも加わってソリ味は重厚かつ硬め。とにかく深ゾリ命な人にはおすすめ。しかし肌へのダメージも他のと比べると大きい感じがする。特徴的なのは他社製品と比べると、刃と刃の間隔が非常にせまいこと。長期的に使うとヒゲづまりを起こすかも知れないが、今回の使用ではそれはなかった(+4点)。
  →最終総合得点:76点 


クアトロ4(シック)
3Dダイアのところで書いたように、そっている最中カチャカチャと安っぽい音を立てるのがマイナスポイント。ソリ味は軽めだが、4枚刃なのと、ヘッドが上下方向にしか動かないのでソリ上がりに不満は感じなかった。プロテクター付きなので、アゴの先をそって横すべりさせて肌を切ってしまう私ような人間にはいい製品だと思う。ただ3枚刃、4枚刃の製品全般に言えることだが、ヘッドのタテ幅が刃の枚数分だけ大きくなっているので、鼻の下などはソリ残してしまうことがある(+10点)。
  →最終総合得点:88点 


M3パワー(ジレット)
ホルダー下部に乾電池が入っているため下の方にウェイトがかかり、結果ヘッド部が軽くなってソリ味も軽くなるわけだが、なんといっても電動のマイクロパワーシステムは異次元のソリ心地。例えるなら「空飛ぶジュータン」とでも言えばよいだろうか。肌が削られる感覚がまったく感じられず、ちゃんとそれているのかどうか不安になってくるほど軽快そのもの。また首振りヘッドのスプリングが非常に柔らかいのも、軽快さの一因だろう。個人的には首振りヘッドはちょっと柔らかすぎる感じも。数回使うと色が変わって交換時期を知らせるスムーサーはお節介だが、それよりこのスムーサー、ベトベトでぬるぬるし過ぎて気持ち悪い。ヘッドはタテ幅が大きいので、細かい部分にはやはり注意が必要だ。刃と刃の間隔は広いので、ヒゲがつまらずにスカッと流れるのは気分がいい(+15点)。
  →最終総合得点:90点  逆転KO勝利!!


●大会結果発表●


激しい死闘の結果は以下の通り。この激闘を通して私は、つい最近まで「たかが安全カミソリ、刃が3枚も4枚もなんて必要ないだろう」と思っていた自分の考えが変わったのを認めざるを得ない、とここに告白しよう。各カミソリメーカーのたゆまぬ精進と努力を、まさに「肌で感じる」結果となった。

なお安全カミソリは刃の枚数が多いほど、刃の材質を柔らかいものにしつつ深ゾリができるようになるため、肌の弱い人は刃数の多いカミソリが良いという話である。肌の弱い男子諸君、そしてこのページを見ている奇特な女子諸君にも今回の死闘が参考となれば幸いである。

〜 優 勝 〜 総合得点:90点
M3パワー 14.5cm 39g USA 所属:ジレット
やはり必殺技・マイクロパワーシステムが他を圧倒した
形になった。個人的にはもう少し強めの首振りヘッドと、
光るパワーボタンがついたら言うことなし。
〜 準 優 勝 〜 総合得点:88点
クアトロ4 13.9cm 46g USA 所属:シック
4枚刃の威力と洗練されたホルダーデザインで
優勝候補の筆頭だったが、M3パワーの電動システム
には一歩及ばず。カチャカチャ言わなければ…。
〜 第 3 位 〜 総合得点:76点
K−4 テトラ 14.5cm 54g 日本 所属:貝印
4枚刃、ヘビー級ホルダー、強力な首振りヘッドと
攻撃力重視の内容だったが、攻守バランスの悪さを
露呈した格好に。全体的にカタいイメージ。
〜 敢 闘 賞 〜 総合得点:74点
プロテクター3Dダイア 12.9cm 56g USA 所属:シック
「元祖プロテクター」が意外な奮闘を見せたが、
3次元アクションヘッドは動きすぎて、個人的には×。
特異な形状のホルダーも足を引っ張ってしまった。
〜 技 能 賞 〜 総合得点:72点
Fシステム・MR3 13.5cm 48g 日本 所属:フェザー
メタルローラーはいいアイディアだと思うが、
活かし切れていない印象。独自ホルダーデザインも
どうせならルイジ・コラーニばりにはじけて欲しい。


※このページの内容は、筆者である木城ツトム個人による主観的な評価によるものです。決して一部特定のメーカーや製品を誹謗中傷する目的で書かれたものではありません。<(_ _)>