ノート漫画の時代
1975〜1979年
小学校低学年のころまでに、漫画風の描き物はけっこうやっていたはずだが、チラシの裏などに書き散らしていたため現存していない。
そんな状態に飽き足らなくなったのか、小学校3年生ごろに新品の大学ノートを購入して一冊丸々長編漫画を描くという、子供としてはたいへん野心的な試みをはじめた。
それはシリーズ化して計15冊+別冊三冊という大長編となった。
現存する僕の最古の漫画作品である。
15冊まで描いたところでいったん完結し、ありあわせの材料でボックスを作って保存した。
そのため僕は「15冊ノート漫画」と呼んでいる。
「15巻」が「15完」になってしまっているのはご愛嬌。
ベタベタ張ってあるシールが年代を感じさせる。
手前の二冊はボックスを作った後に描いたシリーズ。表紙に「第3巻」と書いてあるので3冊あったはずだが、2冊しか見つからなかった。
このころ僕は、ウルトラ怪獣の小さな人形を使って「怪獣ごっこ」という遊びをするのが好きだった。
ウルトラ怪獣の人形とはいっても素材にすぎず、原作の設定は完全無視。
タカラのミクロマンやポピーのジャンボマシンダーなど手元のあらゆるおもちゃも物語に取り入れ、さらにはただのプラスチックのザルを乗り物に見立てるなど、想像力を奔放に働かせて遊んでいた。
ひとり何役もこなし、即興で物語を作っていく、いわば「ロール・プレイング・ゲーム」である。
「15冊ノート漫画」はこの怪獣ごっこを紙の上でそのまま再現するものだった。
子供のひとり遊びの延長なので、他人に見せることを前提に描いていない。
起承転結などない。
下書きなどせず、構想など考えず、即興にてサインペンORボールペンで欲望のおもむくままに描きつづった代物だ。
完成度は極めて低いが、だいたいが「完成度を気にする」というのは社会性を身に付けた人間のすることなので、より野生に近い子供にそんなことを要求する方が無粋だ。
15冊+別冊三冊のタイトルは以下の通り。
「魔神超暴力(バイオレンス)」全3巻
「怪獣革命」全2巻
「怪神ガルーダ」全7巻
「ガンマ星脱出」全1巻
「巨神デーモン」全1巻
「特別攻撃隊ジャット」全1巻
「続・殺気」全3巻
(未完。いきなり「続」となっているのは15冊ノート漫画を描きはじめる前に「殺気」というタイトルの漫画を描いていたためと思われる。)
「暴力」 とか「革命」 とか「殺」 とか、今ならR15指定を受けそうな殺伐とした文句が並ぶのが70年代を偲ばせてほほえましい。
その内容をちょっと見てみよう…。
「魔神超暴力(バイオレンス)」第1巻の冒頭である。
超自然の力によって銅像が動き出し、魔神バイオレンスとなる。
この銅像はジャンボマシンダーのマジンガーZそのままである。次のページで自らの耳を折って手下を作るのだが、実際にウチにあったマジンガーZも耳が折れ、パイルダーがとれたまま紛失していた。
かつて魔神を倒した英雄の子孫である主人公たちと、よみがえった魔神の手下たちが延々と戦闘を繰り広げるというのが物語内容。
15冊あっても中身はみんな同じ である。
この物語の舞台はミラ星という人語を話す怪獣達の住む星で、かつては高度な文明を誇ったが、魔神バイオレンスが暴れたために荒廃した荒野の惑星になってしまったという設定。
したがって人間キャラは登場しない。
主人公たちはこんな感じである。
「魔神超暴力(バイオレンス)」3巻ラスト、主人公たちの乗るプテラノドン型巨大ロボ「空魔巨竜」(「大空魔竜ガイキング」に影響されている)は、魔神バイオレンスに体当たりを敢行。登場人物全員死亡により、物語は終わったかに思われた。
これを描いたのが76年と推測されるので、「さらば宇宙戦艦ヤマト」(78年)で主人公が特攻して物議を醸す2年も前から、僕は特攻オチをやっていたわけだ。
登場人物全員死亡以外の話の終わらせ方を知らなかったらしい。
しかし主人公たちは死んではいなかった。バイオレンスとの激闘から五千年後(いきなりだな)、冷凍睡眠から主人公たちが復活するところから始まるのが「怪獣革命」。
タイトルには特に深い意味はない。
「北斗の拳」みたいな世界が展開している。
「マッドマックス」(79年)より3年あまり前だが、「文明崩壊後の世界」という設定はなぜか僕にとっては子供のころからおなじみのものらしい。
「この世の終りだーっ」という大げさなセリフはおそらく「ゲゲゲの鬼太郎」の影響。
ボックス入りの15冊シリーズには日付が書いてないため、正確な製作年月日はわからないが、当時放映されていたTVアニメなどの影響をモロに受けているので、そこから推察するに75年半ば〜77年と思われる。
子供のころは時間がとてもゆっくりと流れているので、実感としては「銃夢」「銃夢LO」よりも長い時間描いていたような感じがする。
その後「スターウォーズ」や「宇宙戦艦ヤマト」の洗礼を受け、もう少しSFっぽい設定の別シリーズを1時描いていたが途中で中断。
78年に再び15冊シリーズの世界に戻ってはじめたのが「続・殺気」。
これには製作年月日が書いてあるので時期を特定できる。
途中で終わってしまった「続・殺気」第3巻冒頭。
未来都市の描写などに松本零士の影響が見られるが、キャラはあいかわらず怪獣のままというアンバランスさが笑える。
ノート1冊あたり60ページなので、ぜんぶで軽く千ページを超えている。
たいへんな労力を費やしたことは間違いない。
よく海外からのインタビューで「漫画を描きはじめる前は何をしていましたか?」などというのんきな質問 が来るのだが、スタート地点がこうなので非常に説明に困るのだ。