ゆ き と の 書 斎


TEXT by 木城ゆきと

■ 第 7 回 ■
応用テクニック2「Shadeを使った背景」


今回は3DCGソフトShade*を使った応用テクニックを見ていく。

Shadeの操作については専門の解説書にゆずるとして、ここではマンガの絵にどう使っていくかについて取り上げる。



上図はShadeでモデリングしたザレム。これは銃夢完全版の表紙絵のために作ったものなのでかなり凝って細部までモデリングされている。とはいえ、そのままではマンガには使えないので、基本的にパースを取るためのテンプレートして使用することになる。





ビル群の一部をレンダリングしたもの。
レンダリングサイズは300dpiでのサイズを計算して決める。テンプレートとしてプリント出力するだけなので、600dpiは必要ない。また600dpiではたいがいShadeのレンダリング上限のサイズを超えてしまう。見開きなどは300dpiでも大きすぎるのでレンダリングできる上限いっぱいで作り、PhotoShopでサイズを拡大する。
これをプリントアウトし、下書きのテンプレートとして使用する。





完成図。(銃夢LOコミックス2巻PHASE:11)
このやり方の利点はパースの取りにくい物体を正確に描けるということと、テンプレートを出してしまえば下書きのトレースはアシスタントに任せられるので、僕の負担が軽減される点である。
もっともShadeのモデリングやパース決めなどは僕がやるので、全体としてどれだけ時間削減になっているかは疑問だが…。
精神的な負担軽減が大きいかもしれない。





上図は銃夢LO1巻PHASE:04に登場した劇場の一場面。
ずらりと並んだ観客席の椅子。手で描くとしたら頭を抱えるシーンだが、こういうものこそ3DCGがものをいう。





Shadeで劇場をモデリングしたもの。
基本形状をひとつ作り、それをコピーして配置していく方法で観客席を作った。





Shadeの「アニメシェーダー」プラグインでレンダリングした画像。
表面材質の「発光」を100%、影を表示しないようにして輪郭線だけが出るようにしている。Shadeのアニメシェーダーは完全なものではないので、そのまま背景に使うには心もとない。
このシーンでは椅子の数があまりに多く、手でトレスして描くのも大変と判断したので、プリントアウトした紙に足りない線を描き足し、それをスキャンして使用した。
奥の壁と壇上の部分は別の紙に手描きで描き起こしている。





上図は銃夢LO2巻PHASE:11、マザーマシンのシーン。
ここのマザーマシンはレンダリングした画像を2階調化してそのまま使っている。





マザーマシンのモデル。
蜂の巣状のタンクは中身の入ったものが280個、外側だけのフェイクが484個あり、あまりにデータが重すぎるので片方の壁面しか作ってないのだが、それでもリドローに数十秒も待たされるありさま。
反対側の壁面はレンダリング画像をPhotoShopで反転コピーして作る。





上図の背景はレンダリング画像を加工して使っている。タンク内部を出すために少し工夫している。





まずタンクの表面材質の透明度をオフにした状態で一度レンダリングする。レンダリング方法はスキャンライン。
PhotoShopで600dpiに拡大後、2階調化。





次にタンクの透明度をオンの状態でもう一度レンダリング。レンダリング方法はレイトレーシング。
タンクのハイライトにできたグレーの階調を生かしたいので、2階調化はせず、PhotoShopのイメージメニュー→色調補正→ポスタリゼーションで階調を整えるにとどめる。





最初の2階調化した画像のタンクに選択範囲を作り、レイトレーシングした画像をペーストする。
タンクを目立たせるために白っぽいハイライトを全体に入れる。
これで蜂の巣フレームの部分はアンチエイリアスのないシャープなライン、タンク内部はグレー階調のある画像となった。


3DCGでマンガの背景を作るにはいくつかの条件がある。

1…かちっとした形状のものであること(モデリングしやすいこと)。
2…パースが取りにくい、または同じ形状が大量にあるものなど。
3…何度も劇中に登場するもの。

1はモデリング効率と出力結果の品質のバランスを見て、現状では有機的なモデリングは避けるのが妥当だと判断している。ただし、将来3DCGソフトが画期的な進歩をして、人物なども3Dで作るのが当たり前になる日がこないとも限らない。
2は手で描くのが困難を極める、または時間がかかりすぎると予測されるシーン。モデリングの手間とのトレードオフとなるが、どうしても必要なシーンならば3DCGでも何でも使って描かねばならない。
3はザレムやイェールが代表例で、手では描きにくい形状だが3DCGには向いた形状、その上に何度も登場するので、かなり時間をかけてモデリングしても元が取れる。
コマの隅に一度しか登場しないような宇宙船などはわざわざ3Dでモデリングする意味はない。

3DCGは劇的な発展を続けている魅力的な分野である。ゲームや映画、アニメなどに比べてマンガでは3DCGの導入はあまり普及しているとはいえないが、将来は3Dモデリング専門のアシスタントが常駐するような世界になるかもしれない。

(木城ゆきと)

・Shade(しぇいど)
ExpressionTools社の国産3DCGソフト(ExToolsは倒産し、営業権は2003年4月にイーフロンティアに譲渡された)。ベジェ曲線をブラウザで管理する独特の仕様で、レイトレーシングによる静止画の品質の高さには定評がある。