ゆ き と の 書 斎

す ば ら し き ホ ラ ー 映 画 た ち

バタリアン

原題:RETURN OF THE LIVING DEAD
1985年 監督・脚本:ダン・オバノン

恐怖度/
諧謔度/★★★★★

いわゆるゾンビ映画のひとつである。

85年当時僕は、配給元のパブリシティがつけた「バタリアン」という邦題やウソ八百の宣伝文句をバカにしきっていて、腐るほど売っていたこの映画のサントラレコードを買いそびれた。一生の不覚である。
翌年、茨城の実家に帰郷した僕は、弟ツトムと「バタリアン」と「コマンドー」の二本立てを映画館に観に行った。ぜんぜん期待しないで観に行ったのだが、これはグレートな組み合わせだった!
これに匹敵する二本立て映画は、明野の映画館で一人で観た「プラトーン」と「リトルショップ・オブ・ホラーズ」の組み合わせぐらいか。最近は二本立て映画自体がなくなってしまった。残念である。
個人的想い出はこのぐらいにしておいて。

監督・脚本のダン・オバノンという人は大変才能のある人で、「エイリアン」「ブルー・サンダー」「スペース・バンパイア」「トータル・リコール」などの脚本を書いたことで知られる。
この「バタリアン」もシンプルでありながらひねりのきいたプロットの傑作だ。

“この映画は真実だけを描いている。したがって人物や団体名もすべて実名である”という冒頭のキャプションからしていかしている。これを真に受けてしまって笑えない人は観ない方が無難だろう。

アメリカ、ケンタッキー州、1984年7月3日。医学用標本などを扱う会社の倉庫。中年のフランクは入社したばかりの若者フレディーに骸骨標本を箱詰めにする作業などを指導している。
「今までで一番ぞっとしたことは?」と聞くフレディーに、フランクはとっておきの話を聞かせる。
「“ナイト・オブ・ザ・リビングデッド”という映画を観たことがあるか?あれは実話なんだ」
1969年、ピッツバーグの病院で陸軍の依頼で作られたトライオキシン245という薬品が漏れ出し、それを浴びた死体置き場の死体が動き出した。軍はすべてを闇に葬ろうとし、映画製作者にも圧力をかけた。それで映画のストーリーは事実とは違ったものになったという。
ところが、配送業者の手違いで、その死体を詰めた容器がこの会社に来てしまったのだという。
倉庫地下室に今なお放置されている死体入りの容器をフレディーに見せるフランク。
容器を手で叩いたとたん、中のガスが噴出し、二人は昏倒。ガスは通気管を伝って倉庫中に拡散してしまう。
目を覚ました二人が倉庫に戻ってみると、医学用の標本人体が動き出し、二人はパニック状態に。会社のオーナーであるバートを呼びだし、三人で事態の収拾を考える。
映画のゾンビの描写を参考に、標本人体の脳をツルハシで串刺しにしてみるが、動きをいっこうにやめない。体をバラバラに切断してみても、それぞれの部分で動き続ける。
バートは長年の友人で、隣接する火葬屋を営むアーニーのところにバラバラの標本人体を持ち込む。火葬炉で標本人体は灰まで焼かれ、すべては解決したかに見えた。
しかし火葬炉から立ちのぼる煙は雷雲に混じって豪雨となって降り注ぐ。そばの墓地で乱痴気騒ぎをしていたフレディの悪友達は、墓から蘇る無数の死者達に襲われる。
事態はいっそう混乱の度を深めていくのであった……。

冒頭のセリフからわかるように、この映画はジョージ・A・ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」へのオマージュとして作られている。しかしシリアスなロメロのリビングデッド三部作に比べ、本作は徹底してブラックユーモアと諧謔に満ちている。

僕が最高に好きなシーンがある。冒頭でバタリアン化ガスを浴びてしまい、自分が生きながらゾンビと化してしまった事を知ったフランクは、結婚指輪に口づけし、自ら火葬炉の中に入って自分を焼却する。
こう書くと悲惨で悲しいシーンのようだが(いや実際そうだが)このシーンのバックには「BURN THE FLAMES」という諧謔的な名曲がかかり、涙することを許さない。むしろ笑って見送ることが彼を祝福するかのようだ。
僕もうっかりゾンビになってしまったら、フランクのように自決したいものだ。そのときは笑って祝福してくれ。

「バタリアン」はTVでも何度も放送している。この日本語吹き替え版もなかなかに捨てがたい。声優が見事に役にはまっているのだ。「ハイランダー」などと違い、長さもちょうどいいのか、内容を壊すようなカットもなく(さすがに脳天串刺しのような残虐シーンはカットされているが、内容に影響をあたえるほどではない)、ちゃんとエンディングテロップまで放送している。
残念なのはレーザーディスクも遙か昔に絶版になってしまい、2001年7月現在のところDVDにもなっていないことだ。
ぜひDVD化を望む。

注:現在ではDVDが発売されています。
amazonの「バタリアン」のページへ

|1|2|3|