父の話


「i」さん(女性)東京都在住

 私の父の、子供時代の話。

 夏の昼間、家の隣の小さな神社の中から「キィ」と扉が開く音がして、黒い塊がヒュンと家の中に入ってったので追いかけたら、その黒い塊は、台所の蛇口から水を出して何かバシャバシャやってる。するとその後、ちゃんと水を止めてまた瞬時に神社の中へ戻って行った。そういうのを何度か見たって。

 別の日学校から帰って来た父が、玄関の鍵が見当たらず家に入れなかったので、家族が帰って来るのを待っていると、スニーカーを履いたくるぶしから下の足だけが歩いて来て

「すいません、神社はどっちですか」

 と聞かれ、父があそこですと指をさすとそのスニーカーは「どうも」と言って神社へ入っていったって。

 私はこの話を聞くと鳥肌が立つのだけれど、当の父は全て誰かのイタズラだとマジで思っている。

 その父が、今度は高校中退して単身北海道へ働きに出ていた時の、冬の話。

 仕事が終わって、雪の舞う夜道を傘もささずにひとりで家路に向かって歩いてたら、途中ひとりの女の人とすれ違ったんだって。今の女の人、顔色悪かったな、白の着物一枚だけでよく寒くないなぁと振り返って見た時には誰もおらず、雪面に足跡も無かった。

 そしてよく考えてみれば、人は歩くと多少タテの動きがあるもんですが、その女の人はす〜っと水平に進んでいたと。その時点で気づけよ父(笑)。


新井さんの話


 新井さんは小学校の時に仲良かった床屋さんの娘で。

 彼女のおじいさんの命日が大晦日なんですよ。大晦日に亡くなったらしくて。
 で、彼女の家で彼女の彼と、友達のカップル(共通の友達)の4人が大晦日、こたつに入って除夜の鐘を聞きながら話をしてたんだって。

 そうしたら、彼女の家の外の門ね、門が「キィィ〜ッ」って開く音がしたんだって。それで外からガラス越しに懐中電灯?のようなボヤッとした光が、ゆっくり玄関に向かって来たんだって。それで「車のヘッドライトの光が動いてそう見えるのかな?」って思ったら、光の球は1個なんだって。

 それがガラス越しに玄関の方に行って見えなくなったんだけど、そしたら部屋のふすまに、死んだおじいさんの顔がボヤ〜ッて浮かんだんだって。

 これは4人とも見てて、キャ〜ッていうことになって。それと同時に壁に飾ってあった「般若の面」の、般若の面ってこう目がくり貫いてあるじゃないですか。この黒い目の中が「グルグルグル〜ッ」って、中で回ってるんだって。

 それでもう4人ともパニックになったって。


バイク乗りの友人の話


 これも男の友達なんですけど、彼ってバイク乗りなんですよ。この話、都内のどこだって言ってたかなぁ?(東京の)港区って言ってたかな。

 港区かどこかの交差点の、歩道橋の下。バイク乗ってると、目の前に女の人がいきなり出る。

 スパッと出て、初めて見た時は「あっ危ない!」と思ってブレーキかけるじゃない? 危ないと思ってブレーキをかけるホントに手前に、自分の体をすり抜けていく。だから、多分急ブレーキをかけたら、その歩道橋の下で、 転倒しただろうって。

 それでその歩道橋の下を通るたびに、その女の人がいるんだって。「またいるか」って。もう慣れちゃったって言ってた。 「あ、女の人だ危ない!」って思った一瞬ですり抜けてるんだって。

 だからブレーキをかける暇もない。毎回毎回そうやって出てくるから、もうブレーキはかけなくなったって。


霊感が強い同級生の話


 私が女子高にいた時の同級生の子が、霊感が強くて小さい頃から「見る」子で。
 その子の死んだ伯父さんの通夜の時は、通夜が終わってあと家に「伯父さんと一緒に」帰ったんだって。途中までしゃべりながら。

 その子が小学生の時、その小学校に昔、津波で死んだ男の子がいたらしいの。それで彼女が入学した時から、一人で「壁打ち」をやってる子がいるんだって。 野球帽かぶってボールで。

 その「壁打ち」してた男の子は、彼女が卒業するまで、ずーっと子供のまま「壁打ち」してたって。 それが津波で死んだ子らしいのね。ずーっと成長しない姿で。

 それからこれはまた別の話だけど、彼女の自分の部屋で、壁から壁の間を「手首」がシュンッて通り抜けたって(笑)。壁から手首が出てきて、また反対側の壁に入っていったんだって。だから、自分の部屋が何かの通り道なんじゃないかって言ってた。

 それでその子が高校生になって、私と同じクラスになったんだけど、その子の席は一番後ろなのに、しょっちゅう後ろから髪の毛引っ張られてたって。


軽井沢の古い旅館


 これ軽井沢のある旅館なんですけど、これはもう大昔からある、芥川龍之介とか物書きの人がよく泊まったっていう古い旅館で。

 私はもう前からそこに一人で行ったりとかしてたんだけど、その度に私がすごく気になったのは「大浴場」なのね。 そこ24時間お風呂に入れるんだけど、一人で入ってると、どうも人の気配がするの。鏡がいっぱいあるでしょ。こう髪の毛を洗ってても、視界に入る範囲で、なんかフッフッて何かが後ろをよぎるような(笑)。私もう絶対「湯気」だと思って。 怖いと思ったらずっと怖くなっちゃうから、湯気だと思って、怖い思いをしながら大浴場に入ってたんだけどね。 そのお湯の流れる音がさ、時々女の人の声に聞こえるのよね。女の人のヒソヒソ話って感じに。

 それで、あ〜この旅館は大浴場が怖いなーって思ってたら、私の前の仕事の上司って人が、その旅館に行ったんですよ。その上司が夜中に大浴場に入って、上がってから浴衣を着ようとしたのね。浴衣ってさ、裾が袋みたいになってて、そこに間違えて手を突っ込んじゃったりとかするじゃない?それでどーやっても片手がうまく入らなくてイライラしてたら、

「その片手は僕がもらったよ」って後ろから言われたんだって。

 「その片手は僕がもらったよ」って言ってるその声がね、ものすごく品のある、なんかユーモアを言ってるような声だったんだって。 要するに昔の物書きの言い方みたいな。でも片手は大丈夫だって言ってた(笑)。


消防士の先輩の話


 私の友達に消防士の人がいるんですよ。で、その人の先輩の話なんですけど。

 一戸建ての家で火事があって、二階の火を消すために、その先輩が一人で入っていったんだって。そしたらもう周りがものすごい火に 囲まれちゃって、そのベテランの先輩でも「あ、もう自分ダメだな」って思ったって。

 もうダメだって思ったその瞬間に、その先輩の、 亡くなったおばあさんが見えたんだって。おばあさんが見えて、その先輩が、反射的におばあさんの方に飛び込んだんだって。 飛び込んだら、そのまま小窓すり抜けて、外に出たんだって。それで助かったって。

 それで後から見たら、ホントにちっちゃい小窓なんですよ。その「輪くぐり」とか、曲芸が出来るような人じゃなければ、一気に飛んで出れないような。 しかもあんな防火服着てね。そういう小窓をすり抜けられたって。死んだおばあさんがそこに立ってね。

 だから極限の状態になると、そういうの見えやすいのかなって。

※本コーナーに登場する人物名は、すべて仮名です。
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