す ば ら し き ホ ラ ー 映 画 た ち
序文 / 木城ゆきと

さて今回は、ちょっと趣向を変えて夏場のホラー映画特集をお贈りする。

一口にホラー映画と言っても、大昔の吸血鬼やドラキュラ映画、70年代に流行った「エクソシスト」「オーメン」をはじめとするオカルト文芸路線、70年代後期から始まった一種のパンクムーヴメントであるスプラッター映画、80年代に流行った「13日の金曜日」のようなポップ・スプラッター物、80年代後期〜90年代からの流れであるサイコホラー物など、多様である。

生きた人間をただの物体としてとらえ、その破壊を描写するスプラッター表現はホラー以外のジャンルにも浸透し、初期のインパクトは失われた。
スプラッター映画の中にはただ即物的に流血を描くばかりで、なんら怪奇要素がない物もある。人によっては流血無惨なシーンも「怖い」のうちにはいるかもしれないが、僕は「きもちわるい」と思っても「怖い」と感じることはないので、ここでの「ホラー映画」の範疇はなんらかの「怪奇現象」を描いていることを必須条件とする。

また、観る人によって「恐怖」を感じる対象、その「恐怖」を楽しめるかどうかなどはさまざまである。
実を言うと僕は中学生以降、映画を観て「怖い」と思ったことはほとんどない。
あえて怖かった映画をならべていくならば、古典オカルト文芸物の「エクソシスト」や「オーメン」などが筆頭にくるし、個人的には一番怖かった映画はホラー映画ではない「ジェイコブズ・ラダー」の精神病院シーンだったりする。
しかし、僕もそれなりの数のホラー映画を観て、駄作にもまれてきたおかげで、ホラー映画を楽しむための独自の「尺度」というものを持った。

それは「ブラックユーモア」「詩情」「哀愁」の三点である。
またこれに「芸術性」を加えて四点としてもいい。
ホラー要素に加え、上記のうち一点でもあれば楽しめる映画といっていいだろう。
僕は特にブラックユーモアのきいた作品がホラー映画に限らず大好きなのだが、あまりにも純真な心の人はこれが分からないかもしれないので避けた方が無難である。「芸術性」もしかり。

では僕のお気に入りホラー映画選集をどうぞ。

第1回/バタリアン
第2回/スポンティニアス・コンバッション
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