お絵描き掲示板作品:No.5

[ お嬢様 ]

塾 長 解 説

テーマは旧銃夢9巻ウロボロス内に登場した「ロリータ」アリタ。これも製作過程つきだが、今回は技法的な部分に加え、作画前・作画中に何を考えているかという部分を解説している。それにしても女子を描くと観衆に喜ばれる。オッサン画の10倍の反応があるのは間違いない。女子画を連発しての発見であった。


 今回のテーマはなんと「ロリ」なんである。『銃夢』単行本9巻のウロボロスに登場した、ロリータ服メガネのアリタちゃんが題材だ。私がロリコンであるかどうかはさておき(違うということにしておくが)「少女」というのはリアリティを重視する私の画風では非常に困難な題材である。いかに万歳塾塾長の私とて、描き始める前はどうやって描けばよいのか迷いに迷った。と言うのも、まず描き始める前に頭の中に決定的な「成功するビジョン」がなくてはならないからだ。

 さて必勝を期すべくまず私が取り組んだのは、「ロリ」の定義を調べることだった。それ系の書物(を持ってるのがはなはだ怪しいが)を読んでみるが、「ロリ」はあまりに哲学的に深く、昨日今日で理解できるものではないことがわかる。がしかし、自分なりに単純なキーワードとしてまとめてみると「未成熟」「はかないもの」「脆いもの」というような言葉が出てきた。つまり触れれば壊れそうなはかなげな少女の美しさ、かわいらしさを表現すればよいわけだ。ここまで把握できれば充分と見て、いよいよ「ロリ」画に挑む。

 こうした前準備の作業は、作品の「テーマ」をはっきりと一本に絞り込むことに他ならない。誰しも当然「こういう絵が描きたいなぁ〜」という思いがあって絵を描き始めるわけだが、実は初心者ほど描きたいことがたくさんあって絞り込めず、散漫で退屈、しかも無駄な作業量が増えて結局未熟な絵になりがちである。描きたい「テーマ」を徹底して絞り込むことにより、自分の持つ技量を効率よくポイントに注ぎ込むことができ、また見た目もわかりやすく、インパクトも大きい優れた絵が生まれるのである。


1・下書き

 さて頭の中の作業を終えたら、実際の作業の前準備に入る。前回同様、使えそうな資料写真をできるだけ集めておき、頭の中の「完成図」と照らし合わせてみる。うまく行きそうな確信が持てたところで上位レイヤーの「レイヤー1」に下書きを始める。
 作業は拡大表示で行うのが通常だが、いくらキャンバスを拡大しても300×300ピクセルの解像度は変わらないので、もっとも細い1ピクセルの鉛筆線を用いても、細部まで正確な下書きをするのは困難を極める。単純な話、垂直線や平行線はそれぞれ300本しか引けないのだ。今回の絵の場合、口元の微妙なほほえみ具合が難しかった。上の図では丸メガネを描いていないが、メガネは一番最後に描けばよいので、ここでは顔の表情を重視するためわざと描き入れていない。
 この下書きの段階で、服の構造をあまり深く考えなかったのは失敗だった。おかげで謎のスパイラル構造ドレスと化してしまった。うかつ。


2・下塗り

 下書きができたところで、下位レイヤーの「レイヤー0」に肌と服の下色を塗る。服は濃いムラサキを地色として塗ってしまったが、肌色はなるべく薄い肌色を地色にした方がよい。続いて服のしわの出っぱりに合わせ、明るいムラサキを塗ってしわの立体感をあらかじめ出しておく。最後に髪の毛、まゆ、目、鼻、口、アゴのラインにそって黒ゃ濃い肌色で塗っていき、下書きを取り除ける段階まで進めたら下塗り終了。終わったら「レイヤー1」の下書きを「消し四角」できれいに消し、上位レイヤーとして色塗りに活用する。


3・顔塗り

 まず顔の部分をできるだけ拡大表示し、精神を集中させ、写真を参考にして一気に描き上げる。立体感を留意しつつも行き過ぎないよう、細心の注意を払いながら陰影をつけていく。
 「顔」というのは当然ながら人物画の「命」である。テレビCMの「人形は顔が命」と同じ理屈で、人は絵を見た時、まず「顔」をさがす。ゆえにもっとも重要なポイントであり、「顔」がヘボいだけで絵の評価はかなり下がってしまうものだ。ヘボい絵を描きたくない私としても、まず「顔」を集中して先に描いてしまい、絵に「命」を吹き込む。そうすることで、よりいっそう「きちんと仕上げたい」という欲求も沸いてくる。
 この絵もここで「顔」の表情がうまくいったため、この段階で8割方は絵の成功を確信した。逆にもし気に入らない場合はたとえ何時間かかろうと、うまくいくまでやり直すべきだ。


4・ドレスその1

 人物の顔や体をだいたい塗り終えたら、次に服の塗りに移る。髪の毛はもっとも濃い色なので、一番最後に残しておいて問題ない。薄いムラサキを使ってフリフリ部分(正式名称がわからんのでこう呼ぶ)やしわを表現していく。
 ちなみに今回のアリタは生身の体だが、これはもちろん意識してのこと。「ロリ」の「はかなさ」を表現するのにサイボーグボディ(ある意味「永遠のもの」「壊れないもの」の象徴とも言える)では台無しになってしまうからだ。また顔に力を入れている割に胸は真っ白のままだが、これも当然「少女の凹凸のないなめらかな体」の表現として意識的に手を加えないでいる。


5・ドレスその2

 薄いムラサキでフリフリ・しわ部分をほぼ描き終えた状態。この後、黒で細部を際だたせ、濃いムラサキで影をつけて全体的な立体感を出す。
 なお、顔塗りの段階から光の「光源」が絵の左手前にある設定なので、服も左側が明るく、右側が暗くなることを頭に入れて塗っていく。本来こういうシーンを実際に写真で撮影するときは複数の光源を用いるのが常識だが、絵の場合は単純に「単一光源での光の方向」を決めた方が陰影による立体感を出しやすい。


6・ドレスその3

細部を黒(あるいは極めて黒に近いムラサキ)で細部を際だたせた状態。ドレスが重々しくなってしまったのが残念。もう少し工夫の余地があると見る。今後の課題である。


7・ドレスその4

 さらに白(あるいは極めて白に近いムラサキ)で光の当たる部分を強調し、立体感を出した状態。どうしても気に入らない部分はチョコチョコと手を加えてはいるが、これでドレスはほぼ終了。体の陰影も少し手を加えてシャッキリさせてある。


8・顔塗り仕上げ

 ドレスが終わったところで、絵の全体的な総仕上げに入る。まず、仕上げに至ってなかった顔から。瞳に黒を入れ、瞳孔と虹彩、そして目の光をはっきりと描き分けて、より表情を生き生きとさせる。
 虹彩(瞳孔の大きさを調節する組織)は日本人の場合「茶褐色」だが、絵の場合は演出によって色を変えるのもアリ。だがここでは純日本人風に「黒くつぶらな瞳」にするため虹彩は茶色にして、光のまわりと虹彩の周辺を黒く落とすことで瞳の透明感を出す。目の光も当然左の光源の反射位置に合わせて入れている。


9・髪の毛

 全体的な仕上がりが近づいてきたので、ここらで髪の毛を仕上げる。「幼な顔」を意識しておでこをかなり広く取っていたが、ガリィ(アリタ)に見えなくては元も子もないので、髪型をガリィっぽい形に整える。しかしあくまで「ドレス姿のお嬢様」なので、バサバサにはせず上品にまとめた。髪のハイライトもバッチリ入れたいところであったが、頭の左側に巨大なリボンを装着しているので、ハイライトは入れずに髪仕上げ終了となった。


10・背景

 実は、当初の予定では背景にイド診療所の屋上風景を入れるつもりだった。しかし上から見下げた構図なので、入るとしてもせいぜい診療所の屋上かどこかの床になってしまう。そうなればどうしても、ススけた感じの灰色か茶色の陰鬱な背景になってしまうのは目に見えている。そうまでして余計なものを描き入れてもしょうがないと思い、発想を変え、ポップな感じを狙って白地に赤点のトーン処理を施した。人物がちゃんと描き込まれているので、背景はサラリと流しても充分見れる絵になっていると思う。


11・総仕上げ

 いよいよ最後に「丸メガネ」を描き入れて仕上げとする。「円形ツール」でメガネを描いたのだが、そのままではジャギーでジャギジャギなので、「ぼかしツール」で線が消えかかる直前までぼかし、水彩ブラシの1ピクセルで軽くなぞって線を整えていく。しかし問題はこの後、メガネの位置であった。メガネの大きさと位置がうまくいかず、何度もやり直すハメに。一時は「おでこの上」や「メガネなし」まで考えたが、なんとかギリギリで図の位置に決定した。


12・完成

 図ではわかりにくいが、メガネのフチを少しハッキリさせ、顔の陰影も若干強めにしてフィニッシュとした。最後の最後まで、「セクシーロリータ」なこの絵に「丸メガネ」が不釣り合いな気がしてならなかったのだが、終わってみると、この不釣り合いな感じが逆に妙味となってこの絵のポイントになったようである。ドレスの表現はいまいちだが、全体的には自分でも気に入った絵に仕上がった。

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