ビジネスジャンプ91年3号
〜1990年



これが「銃夢」第1話が掲載されたビジネスジャンプ91年3号の表紙だ。


1991年1月15日号と表記されていて謹賀新年などと書いてあるが、実際に店頭で発売されたのは1990年12月15日。なぜか日本の漫画雑誌は慣習で実際の月より1ヶ月早い号表記をする。

ほかの主な連載作品には、

「甘い生活」弓月光 先生
「一本包丁満太郎」ビッグ錠 先生
「オークションハウス」叶精作 先生
「ザ・ハード」猿渡哲也 先生

などそうそうたる大家が名を連ねている。
しかし「銃夢」が異様に浮いているのは誰の目にも明らか。

この当時、ビージャン編集長だったY編集長と副編集長のトミタさんは大胆な誌面改革に取り組んでいた。
上記の連載作品にしても「一本包丁満太郎」以外はまだ始まったばかりであった。
中心の柱となる連載陣に実績のあるベテランをそろえ、さらに僕のような新しい血を注入しようという作戦だったのだろう。
しかしそれにしても…大胆すぎ。ふつう「銃夢」みたいな作品を載せようとは誰も考えないだろう。
チャンスをくれたY編集長には感謝しています。




これが「銃夢」連載第1話トビラだ。

「ネオ・サイバーパンクロマン!!」
「時の彼方に封印された“青き天使”が今よみがえる…」
「90'sコミックに時代の風穴を!!」
などのアオリはトミタさんが書いたものだと思う。
アオリ文句に何を書くかはふつう担当編集者の裁量で、マンガ家は雑誌のガラ刷りをもらうまで何が書いてあるかはわからない。

それぞれに感想を述べると…。

・「ネオ・サイバーパンクロマン」
僕はサイボーグが登場する作品をたびたび描いてきたが、編集者に売りこむときに「サイバーパンク」という言葉を使ったことは一度もない。
むしろ編集者が「サイバーパンク」という形容で僕の作品を語った時は反論してきた。
僕のサイボーグの原体験は、古くはタカラのおもちゃ「変身サイボーグ1号」であり、テーマ的にはトランボの小説「ジョニーは戦場に行った」から受けた影響が大きい。

・「青き天使」
トミタさんはなんか、「天使」にこだわりがあるらしい…。
気恥ずかしくて僕から自発的にこんな形容詞をつけることは絶対にないのだが、このアオリ文句を逆に利用してやろうと思ってマカクのセリフで「天使」と言わせたりした。
ちなみに当時聞いていたSANCTUARYというマイナーへヴィメタルバンドのアルバム「REFUGE DENIED」に「BATTLE ANGELS」というかっこいい曲があり、サブタイトルに「戦う天使」と入れたのはこれの影響である。
これが後に英語版タイトルの「BattleAngel Alita」になるのだから、人生わからないものだ。

・「90'sコミックに時代の風穴を!!」
本当に風穴を開けられるかどうかはこの時点では誰にもわからなかった。

問題は話数のカンムリにつけられた「FIGHT 1」だ。
ここで「FIGHT」とつけられてしまったがために、「毎回ファイトしなければぁ〜!!」と強迫観念にかられることとなった。
「銃夢」の作品スタイルに多大な影響を与えてしまった言葉である。

本当は六田登先生の「F」のような、梶原一騎/つのだじろう先生の「空手バカ一代」のような、恋人が飛び降り自殺して墓前で「ありあけっ〜!!」と叫ぶような、そんな純文学的な作品が描きたかったのだが…。
あ、「恋人が飛び降り自殺」のくだりは一部実現させたっけ。

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