プリーズの弐

「狐に化かされた・その2」

道化師 さん

私は、遠野物語の影響を受けて民俗学に興味を持って調べ始めたのですが、そのため伝説の残る神社、仏閣によく行っていました。

3年ほど前、一人で遠野に旅行に行ったときのことでした。
駅でレンタサイクルを借り遠野中を駆けずり、名所を満喫していたのです。

笠石などをへとへとになりながら見てまわり、夕闇が迫っていたのですが「今日は最後に愛宕山を見て宿に帰ろう」と思い自転車を駆って愛宕山に向かいました。
愛宕神社、五百羅漢と見てまわり、日が暮れていたのですが最後に金精様があるという愛宕稲荷を見ていこうとさらに山を登っていきました。

石段はすっかり木の葉に覆い尽くされ、周りは夕闇とは言えうっそうと茂った森に囲まれ、まるで異界に迷い込んだかのように暗くなっていました。

この時点で、私は既にビビっていたのですが予定が狂うのが嫌で突き進んでいました。

50mくらい石段を登り、真っ暗な中一通り見てさっさと帰ろうとした時、急に足がすくみ動けなくなってしまいました。「げげっ?!」とうめいたはずが声も出ず、まるで石化したかのようになってしまいました。

「誰か助けてくれ!!」と願ったのですが、その日は観光客がやたら少なく愛宕稲荷はマイナーな名所の為人が来るわけありません。

絶望と恐怖が駆け巡りました。闇は濃くなるばかりで、異様な圧迫感が私の精神を締め上げていきます。

もう気も狂わんばかりになった時、「くわぁぁぁぁぁっ!」と鴉が鳴いて飛び立ちました。
瞬間、パチンッと弾かれたかのように、私は石段を転がり落ちんばかりに駆け下りました(実際転びました)。

無我夢中で自転車に乗り、駅までノンストップで駆け抜けました。
駅前で一息つき、落ち着いてからふっと思い出したのが、「愛宕山付近は昔から狐に化かされる名所」であり「ごく最近も化かされた人がいた」事例があり、なおかつ「愛宕稲荷はその狐を祭ってある所」だと言う事です。

「ばっ化かされたぁ!!(怒)」としばらく地団駄を踏んで宿に帰りました。

私自身その時疲れていたでしょうし、どこかで化かされると意識していたかもしれません。
起きたまま金縛りにあったようなものですから、おそらく疲労でしょう。
狐に盗られた物もありませんし、今時狐に化かされたなど恥ずかしくて話した事ありません。

道化師の名の通り、間抜けな体験談でした。