特別寄稿の壱

「落下星」

木城 ゆきと

あなたは星が落ちるところを見たことがあるだろうか?

あれは中学一年になったばかりの夏。
当時視力が落ちはじめてきていた僕は、両親に勧められて、夜空の星を見ることにした。トラックの荷台にゴザをひき、そこに横になって星を見て目を鍛えるのである。
入学祝で買ってもらったばかりのラジカセを聞きながら、三つ年下の弟(こいつは目は悪くなかったが、僕のつきあい)とだべって星を見て過ごす、と言うのが当時の習慣だった。

今考えるとえらくのどかなことをやっていたものだ。

その日もすでに星を見始めて2時間はたっていただろうか。毎日毎日たいして変化のない星空を見続けていい加減飽きがきていたのだが、足元の方の家の屋根のすぐ上にある星が、「スッ」と落ちて消えた。
流星ではない。人工衛星でもない。今まで、2時間もの間ふつうに光っていた何の変哲もない星が、真下に落ちて消えたのである。弟もやはり落ちるところを見ていて、しばらくあれは何だったのか話し合ったが、結論は出なかった。

今でもあれは何だったのか分からない。