プリーズの弐拾五

「張り切る鏡」

間 さん

どういう訳か、私の身内はあまり怖くない「恐怖体験」をする人が多いのでネタ盛りだくさんです。今回は、私が実際に体験した話です。

私が昔働いていた三重県の会社の女子寮の話です。その寮は大変古くて、いかにも何かいわくありげな所でした。
同じ高校から一緒に働きに来たT美の部屋に遊びに行ったのですが、

「朝起きたら、いつもぬいぐるみの位置が寝る前と変わっている。何かこの部屋っておかしい!幽霊かも!」

と相談を受けました。よく寝ぼけてすっとぼけた事をする子だったので、

「寝ぼけて動かして覚えていないだけじゃないの〜」

などとその子と同室のH子と2人でからかっていたのですが、ふと彼女の横にある手鏡に目が釘付けになってしまいました。
彼女の横には棚があって、そこに釘が一本打ち付けてあり、それに手鏡の穴をひっかけてぶらさげてあったのですが、それが音も無く、ぐるぐる360度回転していたのです。
ふと見るとH子も気付いており私に目で合図を送っています。何故か今、T美に知らせてはいけないような気がして(後で聞くと、H子もそう思ったそうです)、

「ばかだね〜、幽霊なんてでないよ!」
「そうそう!絶対寝ぼけて動かしたんだって!!」

と二人で必死に否定しました。するとますます鏡はスピードを上げて回転するじゃないですか!
慌てて、

「さ!この話はやめにして他の部屋に遊びに行こう!!」

とT美を部屋から連れ出しました。
……その後、こっそりH子と廊下で落ち合い、

「さっきのって、一体なんだったの!?」

とひそひそと話し合っていました。するとT美の部屋の隣の部屋から私たちの話し声が聞こえたらしく、Y子が出てきました。

「わ!止めてよ!こんなところで怖い話しないでよ!私さっき金縛りにあって滅茶苦茶怖かったんだから!!」

と言うではないですか。
よく聞くと私たちが手鏡回転現象を見ている間に起こった出来事でした。なんでもベットでごろ寝していたら、突然金縛りになり、誰かが(T美の部屋側の)壁をどんどん叩くような音が聞こえてきたそうです。その上、

「怖くて見なかったけど、誰かが廊下側の窓を開けたり閉めたりしながら、何度も何度も出入りしてきた!」

なんて言うではないですか。
結局、それがなんだったのかは誰も解らず、T美にも結局この顛末を話しました。

それからしばらくして、私もT美も仕事を辞めて寮を退出したのでその部屋がどうなったのかは解りませんが、少なくとも退出までぬいぐるみ移動は続き、隣の部屋のH子は、

「時々金縛りになって、壁を叩く音がうるさくて眠れない」

と言っていました。私的には、かなりはっきりきっぱりと起きてしまったが故に、恐怖感というよりも「あ、話には聞いてたけど本当にあるのね」という認識が先に立ってしまい、妙に感心してしまった出来事でした。
すいません、怖くなくて。