プリーズの拾九

「影がついてくる……」

竹吉 さん

これは中学生の時、いつものように夜の九時ごろに塾が終わり、いつもの帰り道で帰っている時の話です。

その道は墓地の近くという事もあり、何となく嫌な感じのする道なのですが、その道を通らなければ早く家に帰れないのでいつも急いで通っていた道でした。
その日も、その道に通りかかると急いで自転車をこいで通過しようとしていたのですが、何かいつもとちがうような感じでした。

そこで何となくちらっと横を見ると、自分の影とは違う影が横からついて来るのです。
その影は着物を着ていて、自分の自転車にぴったりとついてくるのです。

なにがなんだか分からなかったのだけれど、恐くなって急いでその場を通過しなければと思い、スピードを上げて通過しようとしたとたんに、ある家の前でふっとその影が消えていったのです。
恐くて恐くて、そこからは全力疾走で休む事もなく自転車を走らせて、ようやく家に着いたという感じでした。

家に着くとまず母親に「今日こんな事があったんだよ」と説明すると、「なに馬鹿な事言っているの」と軽くあしらわれてその日はそれで終わりました。

でも本当に恐くなったのは次の日でした。
学校から帰ってきた自分に母親が「昨日、影が消えたとか言っていた場所で今日葬式やっていたわよ。」と言うのです。
亡くなったのは70歳くらいのおばあさんで、いつも着物を着ていたそうです。

その日から塾の帰りはその道を通る事は止めました。
どんなに遠回りになってしまう道で帰ることになったとしても……。