プリーズの七
「プールの老人」 fub さん |
これは僕がプールで泳いでいたときに起こった出来事です。
その室内プールはとっても広くて、深さが2mぐらいある公認プールなもんだから、足がつきません。 僕は20歳になってから水泳を始めたような人間なので、クロールが右呼吸しかできません。 プールの半分、つまり25mぐらいまで来たときに、僕の視界におじいさんのような人が入りました。曇り止めをしばらく塗っていなかったゴーグルの視界はあまり良くありませんでしたが、確かに右のコースを人が泳いでいると感じました。 「ううむ、老人にしてはかなりのものだ」 と関心していたのですが、その次の息継ぎをしたときに水面から顔を出してこちらを見ているように見えたので、 「ふふ、力尽きたか」 などと考えながらまた息継ぎをすると、また同じようにこちらを見ています。 「?!」 僕は少々気味悪くなって、息継ぎの直前水中から隣のコースを見ると、人がいる形跡がありません。そして、水面に顔を上げると……。 僕は怖くなって、その息継ぎは目を閉じて、次の呼吸から慣れない左に切り替えました。 そのプールに行くための電車に間に合わせる為に急いで自転車をこいでいた僕は、近所の八百屋の前で倒れてピクピクしていたおじいさんを知らん顔して通り過ぎていた事を思い出したのです。 「おじいさんごめんなさーい」 そう心の中で叫びながら、バラバラのフォームでなんとか向こう側にたどり着きました。 倒れていたおじいさんを助け、救急車を呼んであげれば……という僕の心が、その様な幻覚を見せたのでしょうか? |