ヤバタの幽霊話

昔(戦時中)、あたしたちが疎開してた時。長屋って…今で言えば物置、倉庫だね。物置に疎開してたの。物置の床を上げて…。オッタテ(茨城県Y市にある母方の実家)じゃなくてオッタテの近くのヤバタっていうとこ。オッタテにはオオサワの叔母が疎開してて入れなかったの。それで物置の床を上げて、畳ひいてたかどうかわからないけど、出入り口はわらで編んだムシロをぶらさげて、どのくらいあったかなぁ、8畳ぐらいあったかな。タンスと洋服ダンスがあって、そこで一時住んでたの。

お母さん(カズエの母)は母親の実家から疎開してきてすぐに死んじゃったんで、お父さん(カズエの父)と兄さんとあたしと妹で寝泊まりして。兄さんが小学校2年生ぐらいかな。昔だからカマドで、七輪で火をたいてお粥を作って食べさせてたのよ。食べ物がないときはオッタテの実家でもらってきて。

ヤバタでそういう生活をしてた時にね、朝起きたら、お粥を作ってた兄さんに「お父さんを起こしなさい」って言われたの。それでお父さんを起こしにいったら、あの、裸電球って知ってる?丸い電球の球ひとつついてて…。ひざ曲げて「お父さん、ごはんできたよ」って言ったら、目の玉に、裸電球が映ってたのよ。目に裸電球が。で「お父さん起きな、起きな。ふざけてないで起きてよ」って言ったら、もう死んでたの。死因は肺結核と…東京に行ったり来たりして荷物を集めてたから、疲労が重なったんだろうね。それであたしがオッタテの家に知らせに行って、葬式やって。その時は涙出なかったの。

もうお父さんもお母さんもいなくなっちゃったから、兄さんとあたしはオッタテの実家で育てられたのね。それから、あたしは池袋の親戚の家に引き取られていったの。そうしたらしばらくして、ヤバタの家で「幽霊が出る」って騒ぎになったの。「幽霊が出る」って。

ヤバタの家じゃ農家だからトイレが外なのよ。そしたらあたしたちが住んでた長屋から、毎晩すぅ〜〜っと光が出るんだって。トイレに行く人が毎晩毎晩見るんで、これは泥棒じゃないかって。それでお巡りさん呼んで、一晩中見張らせておくと、出ないんだって。それで「それは気のせいかも知んないよ」って言って帰ると、また出るんだって。毎晩毎晩。

それで村中の評判になっちゃって。お父さんがあたしたち三人子供を残して死んだんで、心配で心配で、毎晩そこに見に来てるんじゃないかっていうわけよ。でヤバタの家じゃ気持ち悪くなっちゃって、残った着物とか衣類をオッタテにあずけに行ったんだって。

ところがオッタテの実家はあたしに何も言わないの。幽霊が出て村中の騒ぎになってるなんて全然知らなくて。それで、いつだかクラス会があって、オッタテに行って村の人に会って初めて聞いたのよ。「滝沢さん知ってる?」って言うから「なあに?」っ聞いたら「あなたのお父さんが毎晩毎晩出るんだって…」。

それでお盆に兄さんに会ったんでその話をしたら「供養するか」ってことになって、法事をしたのよ。それからは出なくなったらしいんだけどね。