銃夢LastOrder予告



〜ファンのみなさんへ〜

『水中騎士』はウルトラジャンプ2000年9月号の第28回をもっていったん連載終了とし、約2ヶ月の準備期間をとって、ウルトラジャンプ2000年12月号から『銃夢』の新シリーズ『銃夢LastOrder』の連載を始めます。



*『水中騎士』のファンの方へ*

『水中騎士』を楽しみにしていてくれたファンの方には申し訳ないと思っていますが、あくまで一時的中断です。まだまだ描きたいエピソード、描きたいキャラクターがあるので、いつか再開するつもりです。
できるものなら『銃夢LO』と平行して描きたいぐらいなのですが、月に連載二本持つのは僕には無理なので、どうか再開する日を楽しみにしていてください。



*『銃夢LastOrder』とは*

『銃夢LastOrder』は外伝ではなく、完全な続編です。
正確には、旧単行本9巻のイェールがナノマン樹に変わってしまった後の話ではなく、ガリィがノヴァによってザレムで再生されるあたりからの新たなストーリーとなります。プレイステーション版のゲームをプレイした方ならお分かりの通り、かつて「宇宙編」と呼ばれていたシナリオを元にしたストーリーです。



*『銃夢』の舞台裏*

ビジネスジャンプに連載された『銃夢』はバブル末期の'90年11月に第一回の作画が始まり、地下鉄サリン事件で騒然とする'95年3月に最終回の作画が終了しました。

実は、その一年前の'94年2月に「ある事件」が起き、僕は心身共に致命的な打撃を受けました。何が起きたのかは具体的には明かせませんが、精神的にも物理作業的にも、もう漫画連載を続けられないほどのダメージでした。
しかしまだ『銃夢』のエピソードは終わっておらず、責任感から歯をくいしばって描き続けました。連載が月1回のペースに落ち、ページ数も不安定になったのを、当時雑誌を読んでおられた方は知っておられると思います。
'94年の夏、ビジネスジャンプの編集長をまじえた会合で、僕は『銃夢』の連載長期続行が不可能なことをうったえ、来年の早い時期に連載を終える意向を伝えました。
この頃にはすでに、ガリィがザレム、イェールを経て宇宙へ行く「宇宙編」の構想がありましたから、作家としては無念です。しかし人間としては限界だったのでした。
翌'95年早春、最後の馬鹿力をふりしぼり、土壇場でネームを変更して「ザレム墜落」のエピソードを描き、『銃夢』の連載に終止符を打ちました。

しばらくは『銃夢』のことを思い出すのもいやでしたが、'95年秋、違うメディアならば無念の「宇宙編」を描くことも可能なのではないかと思い、『銃夢RPG』の企画書を作りゲームメーカーの人と会合しました。これは後にプレイステーションゲーム『銃夢〜火星の記憶』として結実します。

また'96年春、ジャンプ・ノベルからの引き合いで『銃夢』の小説版の挿し絵を描き、このころにはかなり連載終了時のダメージ感もやわらいでいました。

そして'96年暮れから'97年いっぱいにかけて、銃夢外伝3作品を描きました。本当だったら銃夢外伝連載中の'97年にゲーム版『銃夢』も発売されるはずでしたが、完成は翌'98年にずれ込みます。しかもゲーム発売までに裏でいろいろとトラブルがあり、僕はまたしても非常な無念を味わうことになりました。

'98年暮れから「銃夢豪華本」(完全版のこと。内輪ではこう呼んでいた)の刊行が始まります。これはウルジャン創刊時からのトミタさんの公約で、CD-ROMを付けた本を出したいというトミタさんの長年の野望をかなえるプロジェクトでした。結果的には、時代を反映してCD-ROMではなくDVDが付くことになりました。
また、この豪華本の刊行が、僕に「無念の宇宙編」を描こうという決意をさせるきっかけになったのです。



*最後のチャンス*

『銃夢』宇宙編、つまり『銃夢LastOrder』を連載したいという話をトミタさんにうち明けたのは去年、'99年暮れのことでした。
豪華本の刊行は、僕がカバーの3DCGイラストの制作に手間取るせいで遅れぎみでしたが、ようやく5巻まで刊行が済み、最終巻が残るのみ。
連載終了時の心理的ダメージが癒えた今、「無念の宇宙編」の執筆を阻む理由は、すでに描いてしまったエンディングを描き直す必要があるという点だけでした。そのため、旧単行本9巻から続けて巻数を増やしていくことができないのです。
しかし、外伝のエピソードを時系列的に含みながら刊行を重ねている豪華本からなら、新しい歴史を綴っていくことが可能なのではないか。
僕には豪華本の刊行は、「無念の宇宙編」を描く最後のチャンスに思えました。



*無念をはらす時*

こうして、僕は『水中騎士』の連載を3巻分まででいったん終え、『銃夢LastOrder』を連載する決意を固めました。
「LastOrder」とは、ゲーム版の宇宙編シナリオでガリィに与えられるコードネームです。
当初の予定ではゲーム版シナリオを忠実に描くつもりでしたが、今現在の僕の頭の中では、シナリオは構成要素にまで分解され、ドロドロと渦を巻いております。まったく新しいキャラクター、新しいアイディア、新しいテーマが湧き出て加味され、作者にも物語の結末は予想がつきません。
ですから、ゲーム版をプレイされた方でも、きっと楽しめるものになると思います。



*変わりゆくものと変わらざるもの*

それでも、古くからのファンの方の中には不安を感じる方もいると思います。
「はたして、以前のエンディングを反故にして、それを補ってあまりあるほどの感動の物語を今の木城ゆきとが描けるのか?」
正直に言うと、わかりません。
やってみなければ。

連載が終わって5年、時代は変わりました。
連載時に『銃夢』を読んでいられた方なら、相応に成長しておられるでしょう。
僕自身も、周囲の環境も、変わりました。
絵も変わっているし作画の仕上げの手法も変わっています。
だから『銃夢LastOrder』は前の『銃夢』とは確実に違うテイストの作品になるでしょう。
それがどんな結果になるのかは僕にはわかりません。
ただ設定を明かしていくだけの三文スペースオペラになってしまうのか。
それとも新たなレベルの『銃夢』たりえるのか。

生きているうちに描いておきたいことがある。
だから、挑戦してみます。

よければ、応援してください。



2000.8.27 / 木城ゆきと